『教皇フランシスコの「いのちの言葉」』を読んで


はるか(宗教科教員)

私は時々、なぜこの人はこんなにも愛を実践できるのだろう、と思うことがあります。例えば、マキシミリアノ・マリア・コルベ神父様(1894~1941年)は、アウシュビッツである男性の代わりに身代わりとなって餓死室で死を迎えました。餓死室で死ぬまで祈りを続けたコルベ神父様の姿は、多くの人の心の支えになっていたと言います。また永井隆博士(1908~51年)も、白血病と原爆の被爆の苦しみに耐えながら、原爆の被害についての研究や、平和をつくること、愛することについて説き続けました。自身の寿命が残り僅かであり、子どもと一緒に過ごせる時間が少ないことを分かっていながら、最期の時まで、自身の力をふり絞って、敵を愛するようにとメッセージを発する永井博士の姿には、愛故の強さを感じます。

私が今回ご紹介する『教皇フランシスコの「いのちの言葉」』を書いた森一弘司教様(1938~2023年)も、いつもその温かい優しさで、苦しんでいる人を迎え入れ、亡くなる直前まで神の御心に従い続けて生きた人であると私は強く感じています。このような生き方には、「自分の弱さに打ち勝つ強さ」に裏打ちされた「心から人を大切に思う愛」が感じられ、同時にそれは平和をつくっていく生き方だと感じます。大切にしたい生き方だからこそ私は、なぜこのような人たちが、ここまで神の愛を実践することができるのか、といつも考えます。

2019年11月の教皇来日直前に刊行された『教皇フランシスコの「いのちの言葉」』(扶桑社)では、森司教が教皇フランシスコの人物像や教皇の言葉の意味について、身近な出来事やテーマに沿って語っています。タイトルのとおり教皇フランシスコの言葉が沢山紹介されており、回勅や勧告を通して教皇の伝えるメッセージが具体的な出来事と結び付けられています。「ゆるし」「愛」「いのち」等、私達の身近なことにあてはめて味わえるように解説され、私達自身を見つめるきっかけになる本でもあります。

私がこの本を読んでいて強く感じるのは、教皇フランシスコは「憐れみ」について強い想いを持っているのではないかということです。この本にも書かれていることですが、「憐れみ」は立場が上の人が下の立場の人を「かわいそうだ」と見ていることではありません。苦しんでいる人に出会った時、自分のはらわたをえぐられるような感覚を持って、思わず駆け寄ってしまうことが、「憐れみ」です。

フランシスコは教皇になる前も、独裁政権で抑制されている人との関わりや、貧しい人との繋がりを大切にしていました。そこからも彼自身にとって、「憐れみ」という言葉が非常に深い意味を持つ言葉であり、それが「ゆるし」や「愛」に深く繋がっていると感じることができます。そして教皇が呼びかけられるように、この世界にとってその「憐れみ」の心がどれだけ必要とされるものであるのかも感じさせられます。

コルベ神父様のような生き方をされていた方々の根底には、この「憐れみの心」があり、彼らは自らの歩みの中で、日々その心に突き動かされていたのかもしれません。そしてそれが、彼らに関わる人や生き方に触れる人の中に平和をつくっていったのでしょう。

私自身の生活をふと振り返ってみると、どれだけ「憐れみ」の心を持って過ごすことができているだろうかと考えます。「無関心さ」は憐れみの心から遠いものだろうと思いますが、「無関心」で心を寄せるべき人から目をそらしていることはないでしょうか。

森一弘『教皇フランシスコの「いのちの言葉」』(扶桑社、2019年)

私は冒頭で、神の御心、愛を実践し続けられる強さを持つことができるのはなぜなのかと書きました。その答えは、私にはまだ分かりません。しかし、私はこの本を読んでいて1つのヒントを見つけたように思います。それは、イエスに倣い、日々「憐れみ」の心を持ち続け、それを実践しようと試み続けることです。

自分にとってゆるしがたいと思える人に対して、その行為ではなくその人の存在を見つめ心を寄せる。非常に忙しい時には、自分以外の誰かに心を寄せることはとても難しいことですが、それに打ち勝つ。会ったこともないかもしれないけれど、苦しむ誰かのために祈り、自分にできることを探す。他の人には気付かれない本当に小さいことかもしれませんが、自らの弱さに打ち勝ち、小さな愛を行おうとし続けることで、コルベ神父様や永井博士のように、平和をつくる生き方を、自分の生活の中で歩んでいけるのではないかと思います。

この原稿を書いている今も、地震があったり、戦争が続いたりと大切ないのちが奪われています。そしてそれに対して自分ができることがあまりに小さいこと、自分の中に弱さがあることを痛感します。しかし、教皇フランシスコの呼びかけに勇気をもらい、僅かでも小さな平和をつくっていきたいと思います。

 


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