湖のランスロ


孤高の監督ロベール・ブレッソンによる「アーサー王伝説」を題材とした映画『湖のランスロ』(1974)が2022年3月11日に日本で初めて劇場公開されます。ナチスに捕らえられた若者の脱獄を描いた『抵抗』(1956)などで知られるブレッソン監督は、独自の美意識と思想に支えられた哲学的・神学的深みのある作品を残し、昨年は『田舎司祭の日記』(1951)が日本劇場初公開されるなど再び注目

© 1974 Gaumont / Laser Production / France 3 Cinema (France) / Gerico Sound (Italie)

を集めています。

 

本作が主題とする「アーサー王伝説」とは、ローマ帝国衰亡期の英国を舞台とした伝説に基づく物語の類型であり、中世では主にフランスやドイツで文学として展開していきました。非キリスト教的な神話に由来しながらも、キリスト教や騎士道の影響を強く受けて発展した「アーサー王伝説」は独特の世界観を有しており、こんにちに至るまで様々な文化や芸術に与えてきました。音楽、絵画、文学からアニメやゲームといったサブカルチャーまで種々の作品のモチーフとなっているため、どこかで物語に触れたことのある読者も少なくないのではないしょうか。映像化も幾度となくされており、近年でもクライヴ・オーウェン主演の『キング・アーサー』(2004)やガイ・リッチー監督の『キング・アーサー』(2017)など巨額を費やしたハリウッド映画も制作され続けています。

© 1974 Gaumont / Laser Production / France 3 Cinema (France) / Gerico Sound (Italie)

 

ですが『湖のランスロ』は、上記のような昨今の「アーサー王伝説」映画とは一線を画したストーリーとテーマを扱っています。本作の物語は、聖剣エクスカリバーを抜いて円卓の騎士たちと共に悪に立ち向かうアーサー王の英雄譚でもなければ、魔術師マーリンの奇譚でも、キリストの血を受けたとされる聖杯を探す冒険譚でもなく、多大な犠牲を出した聖杯探索に失敗したアーサー王と円卓の騎士の仲が険悪になっていく人間ドラマが中心となります。

 

聖杯探索に失敗したアルテュス王(英語ではアーサー王だが、本作はフランス語の作品のため字幕に以降準拠)と円卓の騎士の残党は失意のうちに城へ帰還します。騎士たちは共通の理念を失い、最強の騎士であるランスロ(英名ランスロット)も生きる目的が揺らぎ始めます。アルテュス王の妃グニエーヴル(英名グィネヴ

ィア)と不義の恋仲にあるランスロは、神への信仰、王への忠義、王妃への恋の板挟みとなり、生き方の選択を迫られます。聖杯探索

© 1974 Gaumont / Laser Production / France 3 Cinema (France) / Gerico Sound (Italie)

という高邁な目的に従事している際には信仰、忠義、恋は中世の騎士的な価値観で矛盾なく一致しますが、大きな理念を失ったランスロは現実的な人生の優先事項の取捨選択を要求されるのです。

 

有名な伝説の後日談を物語る『湖のランスロ』は、「アーサー王伝説」を脱神話化することで、特定の時代や文化的背景をこえた主題を表現する作品となっています。オリジナルの公開から半世紀近い年月が経過している本作には様々な観方があると思います。ブレッソン監督らしい映像と音響表現を芸術的に鑑賞する、ランスロの決断をドラマとして見届ける、また、監督の表現する思想を考察するなど各々の楽しみ方を発見してみてください。

(石川雄一、教会史家)

月11日(金)より、新宿シネマカリテ他にて全国順次公開

公式ホームページ:https://lancelotakuma.jp/

スタッフ
監督・脚本・台詞:ロベール・ブレッソン/撮影:パスクァリーノ・デ・サンティス

キャスト
リュック・シモン、ローラ・デューク・コンドミナス、アンベール・バルザン

1974年/フランス/イタリア/84分/配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム 宣伝:VALERIA
© 1974 Gaumont / Laser Production / France 3 Cinema (France) / Gerico Sound (Italie)

 


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