『女教皇ヨハンナ 伝説の伝記』


『女教皇ヨハンナ 伝説の伝記』
マックス・ケルナー/クラウス・ヘルバース著、藤崎衛/エリック・シッケタンツ訳、三元社、2015年。定価:3000円+税 230頁

 

第二バチカン公会議を開催したローマ教皇は聖ヨハンネス23世(在位:1958〜1963)ですが、歴史上にヨハンネスを名乗った正統な教皇は22人しかいません。というのも、ヨハンネス19世(在位:1024〜1032)の次にヨハンネスを名乗ったのはヨハンネス21世(在位:1276〜1277)であったため、ヨハンネス20世が存在しないのです。このヨハンネスの“欠番”に加え、「6つのP」が書かれた不思議な碑文や教皇椅子の奇妙な穴などの様々な謎が人々の想像力を刺激した結果、「女教皇ヨハンナ」伝説が生まれることとなりました。

 

映画化もされている「女教皇ヨハンナ」伝説については、以前高柳俊一先生がこちらの記事で紹介していますが、その物語を要約すると以下のようになります。

9世紀、ドイツのマインツという街にヨハンナ・アングリカという少女がいました。とても頭の良かった彼女は、女であることを隠して学問の中心アテネへ留学しました。当時、学問は男性のものであり、女性が留学するなど言語道断だと考えられていたからです。ですが、ヨハンナはアテネの学校を他のどんな男性より優秀な成績で卒業します。留学を終えた彼女は西ヨーロッパに帰ると、政治の中心ローマで貴族の子弟の教師となり、人々の尊敬を集めていきました。とうとう教皇の地位にまで上りつめたヨハンナでしたが、不貞の結果として子供を身籠ります。そして職務の最中に産気づき、公衆の面前で子供を産んだために女性であることがばれてしまったヨハンナは、悲惨な最期を遂げました。

 

女性であることを隠し、教会のトップにまで登極しながらも、人々の前で子供を産んで死んだというスキャンダラスな「女教皇ヨハンナ」伝説は、歴史の中で様々な集団に利用されてきました。「女教皇ヨハンナ」伝説を引用して、中世の男性たちはエヴァ以来の女性の罪深さを強調し、宗教改革者は教皇や教会制度を批判し、現代のフェミニストは抑圧された時代のヒロイン性を際立たせました。『女教皇ヨハンナ 伝説の伝記』は、こうした「女教皇ヨハンナ」伝説が、どのように発生・発展し、人々に用いられてきたのかを明らかにする一般向けの歴史研究書です。

 

様々な歴史上の出来事と共に「女教皇ヨハンナ」伝説を紐解く『女教皇ヨハンナ 伝説の伝記』は、フィクションをフィクションとして描く小説とは異なり、フィクションを現実の延長として捉える今日の歴史学の手法を用いて論を展開していきます。例えば、なぜ13世紀に成立した伝説は9世紀を舞台に設定したのか、女教皇のヨハンナ・アングリカが持つ意味とは、ドイツ生まれとされるヨハンナはアングリカ(英国人)なのかアンゲリカ(天使)なのか、人々は本当に「女教皇ヨハンナ」の実在を信じていたのか、といった興味深い問いが議論されます。

 

専門的な専攻研究を要約して紹介しながら、史料を用いた丁寧な分析を展開した結果、「女教皇ヨハンナ」伝説は消費的な娯楽ではなく、読者の知的好奇心を刺激する一冊です。日本語版には付録として一部史料の翻訳も収録されており、重要な文献に触れる機会も提供しています。

石川雄一(教会史家)

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