ズケットの思い出


熊谷雅也(カトリック大船渡教会)

岩手県沿岸南部にあるカトリック大船渡教会は東日本大震災で5人の信者を亡くし、丘の中腹にあった納骨堂が流出してしまうなど大きな被害を受けました。そんなこともあり、被災地の教会ということで教皇ミサ当日の午前に半蔵門で行われた「東日本大震災被災者との集い」と、東京ドームでの「教皇ミサ」に招いて頂き、40人くらいの信徒をはじめ、大船渡教会の復旧支援に関わってくださった神父様方やシスター、ボランティアスタッフと共に参加させていただきました。

集いの会場に入ると、毎週教会で顔を合わせる信徒はもちろん、数年前まで大船渡にいてくださった神父様やシスターたち、そして支援活動に携わってくれていたスタッフたちとも再会することができ、握手したりハグしたりとまるで高校卒業以来初めての同窓会のように、みんな気持ちがはしゃぎ喜び合いました。

この集いはテレビでも放映されましたが、13人の被災地の代表が壇上に上がり、そのうちの3人が数分間のお話をしました。13人の中には大船渡教会の山浦玄嗣さんと菅原マリフェさんもおりました。山浦さんは震災直後に地域医療に献身し、マリフェさんはフィリピン出身者のリーダーとして献身的に活動してきました。

テレビで見た方もいたかもしれませんが、羽織袴姿の山浦さんはその手に「ズケット」を持っておりました。フランシスコ教皇が自分の前に来たとき暗唱したスペイン語で、「隣人への共感を示すため、どうぞこれにお手を触れ祝福をお与えください…」と準備していた帽子です。でも、山浦さんの気持ちを察した教皇様は、すぐさまご自分の被っているズケットを取り、山浦さんが手にするズケットを頭に乗せて返してくださいました。会場にいた私たち大船渡教会の信者は「やったー!」と声を押し殺しながらの歓声を上げました。教皇様に被っていただいたズケットを教会の宝物にしようというこの計画は、事前にみんなにも知らされていたからです。

(c) CBCJ

そして午後はいよいよドームでの教皇ミサ。ほとんどの人が初めて入るドーム球場です。私たちの席は有り難いことに祭壇を真正面に見る1階席で、司式の様子が肉眼でよく見える上席に準備されておりました。前日の広島・長崎での教皇様の様子をホテルのテレビで見た際お疲れの表情が見え、この日も朝から被災者の集いや天皇陛下との会見など秒刻みのスケジュールでしたので、教皇様の体調が気掛かりでした。しかし登場のその時、オープンカーに乗って入場し子どもたちに次々に接吻する際の教皇様の疲れを見せぬ嬉しそうな表情がドームの大画面に映し出されたとき、5万人の参列者たちの心はみな一様に解きほぐれ心が一つになったと感じました。

初めて体験する5万人のミサでしたが、会衆の祈りや歌も乱れることなく心が一つになったミサは、“心もおなかも満たされた最高の食事”のような素晴らしいミサでした。私たち被災地の教会にとってこの日は、大震災からの復旧の日々を精算し新たな歩みを始める“新しい出発の日”になったのだと今改めて感じることができます。

 


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