アート&バイブル 15:二つの聖三位一体(二つの聖家族)


ムリーリョ『二つの聖三位一体(二つの聖家族)』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ(Bartolomé Esteban Perez Murillo, 生没年 1617~1682)は、1617年12月31日、セビーリャの理髪師の末っ子として生まれました。ちなみに当時の床屋は外科医も兼ねており、現在も残っている青・赤・白のクルクル回る床屋のマークは、静脈(青)、動脈(赤)、包帯(白)の象徴なのです。ムリーリョは11歳で孤児になり、姉のもとで成長し、13歳位から絵の修業を始めたといわれていますが、1640年になって、ようやく彼の作品の記録が現れてきます。

図1『無原罪の御宿り』(1678年頃、スペイン・プラド美術館所蔵)

彼の画業の業績は、大きく3つの時期に分類されます。

第1期(1650年代)
「冷たい様式」の時代と呼ばれ、自然主義の画風で描かれ、『天使の台所』『蚤を取る少年』『ロザリオの聖母』(1650年、油彩、 スペイン・プラド美術館)などが代表作です。

第2期(1660年代)
「熱い様式」の時代と呼ばれ、穏やかな安定した作風で、黄金時代とされ、その名声も高まりました。『エル・エスコリアルの無原罪の御宿り』(1660~1665年、油彩、209×173cm、スペイン・プラド美術館)は温かみのある、穏やかな表情で描かれています。

第3期(1670年代)
「薄もやの様式」の時代と呼ばれ、甘美なスタイルへ傾注していきます。背景がスフマート(物体の輪郭を柔らかくぼかして描く技法)のように描かれていて、柔らかさを感じさせます。『聖母子』(1675年、油彩、イタリア・ローマ国立美術館)、『無原罪の御宿り』(図1)、今回鑑賞する『二つの聖三位一体(二つの聖家族)』(図2)、『貝殻の子どもたち』(1670~1675年、スペイン・プラド美術館)などが代表作です。

 

【鑑賞のポイント】

図2『二つの聖三位一体(二つの聖家族)』(1675~82年頃、ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵)

(1)『二つの聖三位一体(二つの聖家族)』は、父と子と聖霊の三位一体とヨゼフ、マリア、イエスの聖家族を同時に描いている珍しい構図で(特集16の「聖家族崇敬が生まれた状況」も参照)、柔らかなタッチで描かれていますが、これは彼の作品の中でも隠れた傑作と言ってよいとでしょう。

彼の代表作はセビーリャのカプチン会やサンタ・マリア・ラ・ブランカ聖堂、カリダード施療院に残っています。いずれも暖かい色調と自在なタッチで、当時の荒んだ人々の心を癒す、優美で慈愛あふれる世界を描き出しています。

(2)聖父と聖子と聖霊の三者は縦に(垂直に)配置されています。そして聖母マリアと聖ヨゼフの二人は幼子イエスの左右という横に(水平に)描かれています。この配置は十字架の形になるのです。聖母マリアの視線は幼子イエスに注がれています。さらに幼子の右手は聖母の右手の人差し指をしっかりと握りしめています。ところがイエス様の左にいる聖ヨゼフは視線をイエス様と同じ方向に、かつやや下向きに向けています。

そして幼子イエスの左手はヨゼフが広げた掌においています。左右の聖母マリアの視線と手のポーズ、聖ヨゼフの視線と手のポーズは対照的であり、父と母のそれぞれの役割を表しているように思います。マリアの服は定番の赤と青のマントですが、ヨゼフは緑の服と大地を思わせる茶色のマントになっているという対照も面白いと思います。

 

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