スペイン巡礼の道——エル・カミーノを歩く 29


古谷章・古谷雅子

5月25日(木) ブルゴス~オンタナス(2

歩行距離:31.3㎞(巡礼路のみの距離、散策見物などは含まず)
行動時間:8時間5分(含休憩、飲食)

 

オンタナスまでは地平線まで続く広大な麦畑にヒバリの囀(さえず)りだけだ。景色も行動も日常ならぬ解放感の中を歩く。灼熱の太陽に焼かれた一昨年のような夏場でないことを感謝しつつ・・・。アローヨ・サンボルというアルベルゲ(巡礼宿泊施設)が道の左奥の高みに見えたが、現在は無人になっているようだ。もともとトイレやシャワーもない避難所だったらしい。今も緊急時に風雨を凌ぐことはできそうだ。この先、道は下りになり眼下に教会の鐘楼が見えてきた。オンタナスの中心にある「無原罪の聖母受胎Inmaculada教会」だ。ここは巡礼宿泊地に特化した小さな村だ。泉が湧きかつては巡礼者の救護施設があったという。

まず村営の「アルベルゲ・エル・プンティト」に行った。男女一緒のドミトリー(大部屋)しかないと覚悟していた。ところがシャワーやトイレはドミトリーと共用だが、二人部屋があるというのでそちらを申し込んだ。今回は健康上の事情から少し贅沢(もちろん徒歩巡礼の範疇でのことだが)をしてもできるだけ睡眠を確保するという方針だ。(部屋代二人で€28、ドミトリーなら一人€6)

午後は村の中を歩いてみた。年代物の立派な泉と教会のほかにはもう一軒のアルベルゲとオスタルだけで大きな建造物のないこぢんまりした静かな集落だ。裏手が自然な草地になっている教会はつつましくも好ましい落ち着いた建物で、その鐘が村に鳴り響く通信手段になっていた。時報だけでなく夜のミサの予告17:50、ミサの開始18:00。鐘は古い鐘楼の中で実際にグルグルまわって昔通りの音でリズムを奏でていたが、恐らく最新のプログラミングが施されているのだろう。鐘の鳴り響く中、俄かに雷鳴が唱和してすごい夕立があったが、短時間でけろりとやんだ。これがスペイン的天候なのか。申し訳ないが、疲れていたのと夕食が19時開始なのでミサには出なかった。夕食は20時からも選べるが、翌朝も早出の私たちは敬遠せざるを得なかった。田舎では巡礼のために夕食時間を早めているところも多い。

夕食はこのアルベルゲの食堂で食べた。一斉開始のペリグリーノス・メヌー(巡礼定食)だが、テーブルが少人数に分かれているのでほっとした。実は長テーブルで向いや左右の人たちと型通りの談笑と社交会話から始めるのは巡礼の醍醐味でもあるが、時にはちょっと重いこともある。おかしなものだがその時の天の配合で旅の雰囲気というものがあるような気がする。

昨年サン・ジャン・ピエ・ド・ポーからブルゴスまでの旅では健脚組がほぼ同じ行程で進み、多少の宿泊地の違いはあってもしばしば顔を合わせた。また役者がそろっているというか個性的で、話題も個人的なことに留まらずイギリスのEU離脱、現在のキリスト教徒の日常なども教えてもらった。社交に政治と宗教(エル・カミーノでは話題になるのは当然としても)はご法度ということもなかった。私たちも「日本人は皆仏教徒なのではないの?」と何度も聞かれ、神道と仏教と政治支配の繋がり、フランシスコ・ザビエルに始まるイエズス会の日本での布教、キリスト教禁令、鎖国のことなど、汗をかきかき日本史の復習をすることになった。

今回は気力を掻き立てる雰囲気は希薄で、しかも私たちは早朝出発の少数派だったので、人と交流する機会も前回と比べると少なかったが、エル・カミーノを歩く人は皆友好的で安心だった。

私たちの庶民水準ではどこも定食は基本的に同じ構成だ。
前菜 (第一皿 Primer Plato):主にスープ、サラダ、パエージャ、パスタなどから。
メイン (第二皿 Segundo Plato):肉、魚のステーキや煮込みから。
デザート (Postre):ケーキ、アイスクリーム、フルーツ)、ヨーグルト、プリンなどから。
飲み物 (Bebida):ワイン、ミネラルウォーター。二人だと、大体ボトルで出てくる。コーヒーはつかず別料金。

今日はズッキーニスープとサラダ、茹で牛肉とミートシチュー、自家製フランとアイスクリーム、二人で別々のものを頼んで取り換えっこで食べた。素朴だが明日に繋がるような美味しさを感じた。パン、ワイン、ミネラルウォーターはどこでも好きなだけ。初日に一番長い行程を無事に越えたので、今後の行程にも心にも余裕ができた。

 

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