「選ばれた」捨てられた者、イスカリオテのユダ~カール・バルト『イスカリオテのユダ』ブックレポート~


野乃(大学生)

私は、正直このカール・バルト著『イスカリオテのユダ』(吉永正義訳、新教出版社、2015年、初出年1997年)を読むまで、ユダに興味を持つこと自体ほとんどありませんでした。裏切り者の悪い人間には触れたくない、という恐れがあったのかもしれません。しかし、本書の「ユダは、イエスご自身と並んで、ある意味で新約聖書の最も重要な人物である」(181頁)という言葉を受けて、「裏切り者だからこそ」注目する価値のある人物であることを学びました。

本書では、第二編からイスカリオテのユダについてバルトの見解が語られているという構成になっています。第一章「使徒の一人としてのユダ、ユダの罪」第二章「ユダの役割と意義」に分かれています。ユダは「裏切り者」でありながら「使徒」であり、その使徒性はどのように表れるのか、また「ユダの引き渡し」と「神的引き渡し」、パウロとユダとの違いから見えてくるものは何か、といった問いが豊富に掲げられ、新しい視点を与えてくれる1冊となっています。今回のブックレポートでは、それぞれの章で特に印象に残った言葉をピックアップし、それに対する感想や考えを述べさせていただきたいと思います。

まず、第一章の中から、①「彼は、イエスに対して、自分を捧げてはいなかった。彼は、彼にとってまさにもっとよいと思われるほかのもののために、イエスを捨てることができた。」(同書、43頁)➁「彼にとってイエスはこの悪い報酬のための売り物であるということ、それがユダの罪である。」(同書、49頁)以上2つの言葉を挙げます。

①について、「裏切ったこと」だけではなく「捧げる」というイエスに対する愛を表すという積極的な行為を避けていた、という視点が新しく、ユダの行為の哀しさがより自分に近いものとして感じられる気がしました。このユダの姿勢は、私自身、受洗を考える上で意味のある問いを与えてくれました。そして、ここでの「もっとよいと思われるほかのもの」とは、銀貨三十枚のことであると書かれています。「本当に自分を生かすものは何か?」この問いの前で、ユダは「優先順位」を誤ってしまったのが弱さであると学びました。

➁について、ユダにとっては、イエスが目的ではなく手段になってしまっていたことが問題であるという気づきも得ることができました。自分の求めるものが満たされてからイエスに目を向けるようでは、本当の意味でイエスを愛することができているとはいえない、と考えさせられました。

続いて、第二章の中から、以下の2つの言葉を挙げます。

まさにユダ、無類の罪人、こそが、――その比較を絶した罪にもかかわらずというのではなく、むしろ、そのような罪の中で――、神の意志が決定的なところで出来事となって起こることに対して、手をかしたのではなかったか。

(同書、 184頁)

この言葉の中で特に心が動いたのは「罪の中で」という部分です。ユダが犯した「裏切り」という罪もまるごと包み込む神様の愛を感じられる一文でした。神様の愛は、罪の闇が深ければ深いほど、むしろそこにおいて、よりはっきりと表れ、注がれるという逆説的な視点が新しい理解に繋がりました。神様の愛は私たち人間の理解を超える、ということも改めて感じさせられる箇所でした。

まさに彼の明らかに捨てられた姿の中で、またパウロやペテロもそうでなかったような仕方で、神の奉仕者となる、すなわち、和解の業そのものの奉仕者となる

(同書、184頁)

この文章の中で、神様は「明らかに捨てられた姿」である人間が、「神の奉仕者」になり得る道も開いてくださっているということに希望を感じられると捉えました。ユダは、「捨てられた」ということが独自のアイデンティティとして持っているという視点は無かったので、新鮮な気づきでした。バルトは本書で、ユダの罪を弁護することは否定していますが、ユダの犯した罪が神様の計画の中でどのような意味を持っていたのかを考えることは、より神様の慈悲深さに感謝するために意義があることであるという学びがありました。

以上、バルトの考察を少しピックアップさせていただきました。本書を読み、ユダが受けた誘惑は決して他人事ではなく、私も気を抜くとユダと同じような罪を犯す可能性は十分にある、ひとりの弱い人間であることも再認識させられて、背筋が伸びる思いでした。ユダを遠ざけるのではなく、自分の在り方を重ね合わせることで、神様の愛の深さにより気づくヒントを得られるかもしれない、と思いました。拙い文章ではありますが、本ブックレポートをお読みいただいて、少しでもイスカリオテのユダにご興味を持たれた方は、ぜひ本書をご一読いただけますと幸いです。ありがとうございました。

 


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