ドキュメンタリー・レポート~~ガザへの視角


石井祥裕(AMOR編集部)

2023年10月からのイスラエルとガザを実効支配するイスラム過激派組織ハマスとの武力抗争に関連して報道番組のほかに、とりわけNHKで関連ドキュメンタリー番組の再放送や新放送が相次いでいます。新しい知識、知見に出会えることも、それ以上に映像から刺激や衝撃を覚えることも多いです。それらについて語り合えたらと思うことがしばしばです。いくつかはオンデマンドや配信サービスでの視聴も可能だと思います。少しでも共有ができれば、と願うばかりです。いくつかのタイトルを紹介しましょう。

 

【再放送】

  • NHKスペシャル「ガザ 封鎖された町で」(初回放送2003年9月、今回再放送2024年1月)
  • NHKスペシャル「ドキュメント・エルサレム」前編・後編(初回放送2004年1月、今回再放送2023年11月)
  • こころの時代 アーカイブ・シリーズ「ガザに暮らして(1)ガザに“根”を張る」(初回放送2014年、今回再放送2023年11月5日)
  • 同「ガザに暮らして(2)紛争地から声を届けて」(初回放送2017年12月3日、今回再放送2023年11月12日)
  • BS世界のドキュメンタリー「ガザに留学した医学生」(原題 Erasmus in Gaza/2021年 スペイン制作)(初回放送2022年11月29日、今回再放送2023年12月1日)

 

【新放送】

  • NHKスペシャル「衝突の根源に何が〜記者が見たイスラエルとパレスチナ〜」(2024年1月28日放送)
  • ETV特集「ガザ〜私たちは何を目撃しているのか〜」(2024年1月20日放送)

 

聖墳墓教会

これら、今の“イスラエルとパレスチナ”の状況に肉薄するもののほか、エルサレムの聖墳墓教会を共同使用するキリスト教諸教会(ローマ・カトリック教会、ギリシャ正教会、アルメニア使徒教会、コプト正教会、シリア正教会、エチオピア正教会)の相互の関係の複雑さを「縄張り争い」として、ややシニカルに活写したドキュメンタリーも気になるものでした。

  • BS世界のドキュメンタリー「聖地の果てなき縄張り争い」(原題 The Church/2020年 イスラエルおよび国際共同制作)(初回放送2020年8月5日)

 

2003年段階のガザの風景

NHKスペシャル「ガザ 封鎖された町で」は、2003年当時のガザ地区の概要をまず伝えています。ハマスの軍事訓練の模様も映されている貴重な記録でもあります。中でもクローズアップされていたのはファイズ・アルハサニさん(当時50歳)という画家。オスロ合意(1993年)後の状況下、和平への希望を表現する絵を描いていたファイズさんは、2000年以降は絶望の青で塗られた絵しか描けなくなったといいます。他方、イスラエルに対する自爆テロを敢行して命を失ったパレスチナ人青年たちの大きな肖像画を遺族に頼まれて描くことをもっぱらにしていきます。息子の犠牲と生きていた証しとして絵を切願する遺族の気持ちと、こんな風に表現したいという画家の気持ちが時に行き違っていきます。また仕事を手伝う息子のリマハさん(当時18歳)との意見の相違が生まれる、といったガザの人々の気持ちの陰影に、カメラは迫っていきます。

ファイズさん自身、弟のムハンマドさんがイスラエル軍に囚われており、その釈放の時を待つ母、兄弟、縁故の人々の円居の様子も映ります。20年前のこのような状況の構造的要因は、まちがいなく今や輪をかけて深刻になっています。この少し前の光景から2023~24年の現在が照らし出されます。

 

イタリア人医学留学生が見たガザ

2021年スペイン Arpa Film制作の「ガザに留学した医学生」は、2020年、「エラスムス制度」(ヨーロッパ圏内の諸大学連携の交換留学制度)を利用して、ガザに留学した青年の密着映像レポートです。映画(2022年公開 88分)にもなっており、日本でも『医学生 ガザへ行く』というタイトルで公開されたようです。さまざまな賞を受けているヨーロッパでは有名な作品のようです(さまざまな情報が上がってきますので参照してみてください)。

「エラスムス」と聞くと16世紀の有名な人文学者を連想しますが、この場合は、European Region Action Scheme for the Mobility of University の頭文字から来るもの。イタリア、シエナ出身の医学生リッカルド・コッラディーニさんはこの制度を使って初めてガザに留学した医学生として大きく注目されていたようです。2018~19年の大規模空爆で7000人ものパレスチナ人が犠牲になったという状況後の2020~21年を、留学渡航の初めからカメラは追っていきます。

イスラエルとの国境にあるエレズ検問所を通過するところ、留学先ガザ・イスラム大学医学部での挨拶に緊張するリッカルドさん、そして実習先の病院の様子が映し出されます。そこは「特殊外科」と呼ばれる部署。イスラエルの攻撃のために片足を切断された青年への処置を見聞します。実習中にも起こった爆撃で救急に運ばれてくる負傷者、しばしば子どもたちの脚への処置を通して、ガザの人々の痛苦が一目されます。一方で、現地の医師や看護師たちのある意味、平生の職務といった対応ぶり、他方で、顔面がこわばっているリッカルドさんの様子から、この地で起こっていること、住民に襲いかかっている現実が伝わってきます。近くで爆撃があり、そのときに仲間たちと地下シェルターに逃げ込む様子、無事だったことに緊張からの解放感からか踊り出す様子など、脅威の中に暮らす住民たちの空気もひしひしと。

リッカルドさんの帰国後、2021年5月の爆撃で彼が学んだ大学も、実習した病院も大半が破壊されたといいます。さらに2023年10月17日、その病院は激しい爆撃で壊滅的な打撃を受けましたが、スタッフや機器の不足の中でも、医療活動が続けられていると補足的に報じられます。

12月の再放送版では、本編終了後の短い番外編が加えられており、本編に登場したリッカルドさんの友人たちの声が編入されていました。彼のホストファミリーで、友人となった青年の最新の声が胸を突き刺します――「ガザはもう耐えられない。国際社会にそう訴えている。ガザは死につつある。皆はただ自分の番を待っている」。

 


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