アート&バイブル 79:レベッカとエリエゼル


ムリーリョ『レベッカとエリエゼル』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ(Bartolomé Esteban Perez Murillo, 生没年1617~82)の作品です。ムリーリョについては、第15回「二つの聖三位一体」でその生涯を紹介し、第19回「放蕩息子の帰還」でも鑑賞しました。

ムリーリョは、1660年にデッサンアカデミーの創設に参加し、教授として、院長として画壇の頂点に立ち、私生活でも9人の子どもを得て、絵画の制作に最後まで情熱を失わずに取り組みました。没後は18世紀を通じて、「スペインのラファエロ」と呼ばれようになります。彼の絵には、ラファエロのような優雅さと優しさがあふれていたからです。彼は、評論家によるよりも民衆の間での人気が高い画家です。日本でも聖母を描く作品がよく知られていますが。ラファエロやミケランジェロについて多くの絵画集が出版されているのに、ムリーリョについてそのような本は見当たりません。しかし、見る人の心に生き続ける絵を残した画家であると思います。

 

【鑑賞のポイント】

(1)この絵のモティーフは創世記24章に記されている「イサクとレベッカの結婚」にまつわるエピソードです(レベッカは新共同訳では「リベカ」)。

年老いたアブラハムは一人息子であるイサクのために故郷の地から嫁となる女性を探すように、信頼している僕(しもべ)エリエゼルを遣わします。アラム・ナハライムのナホルの町にたどり着いたエリエゼルは町はずれにある井戸の傍らで夕方の水を汲みにくる女性たちを待っていました。そのときに次のように祈ります。

ムリーリョ『レベッカとエリエゼル』(1650年 油彩 107cm×171cm プラド美術館所蔵)

「この町に住む人の娘たちが水を汲みに来たとき、その一人に、『どうか、水がめを傾けて、飲ませてください』と頼んでみます。その娘が、『どうぞ、お飲みください。らくだにも飲ませてあげましょう』と答えれば、彼女こそ、あなたがあなたの僕イサクの嫁としてお決めになったものとさせてください……」(24章13~14節)

すると、この僕エリエゼルの祈りが終わらないうちに、レベッは井戸のところに現れます。他の娘たちは見知らぬ男の人に警戒心を抱き、無視しようとしますが、レベッカは「どうぞ、お飲みください。らくだにも飲ませてあげましょう」と答えるのです(18~19節参照)

(2)絵では、桶を傾けて水を飲んでいるエリエゼルの背後に、高価な贈り物を載せた10頭のらくだの姿が一部描かれています。このエピソードは、「キリストの弟子だという理由で、あなたがたに一杯の水を飲ませてくれる者は、必ずその報いを受ける」(マルコ9章41節)という言葉を思い起こさせます。それがイエスの心だとすれば、私たちには大いなる希望があるといえます。多くのことや偉大なことができなくとも小さなことに真心を込めて行えば、イエスはそれを決して忘れないのです。

 


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