齋藤克弘
街中でもテレビでもクリスマスソングがBGMに流れていますね。クリスマスは元々キリストの降誕(聖誕)を祝う行事ですから、古来、さまざまな音楽が作られました。最も有名なクリスマスの歌=クリスマスキャロルは「きよしこの夜」でしょう。この歌は1818年現在のオーストリア、オールベンドルフという小さな村の教会で最初に歌われました。作詞はこの教会の助祭のヨセフ・モール。作曲は教会のオルガン奏者で村の学校の先生だったフランツ・グルーバー。歌詞はドイツ語で6番まであり、最初はギターの伴奏でした。今でも当時の教会がそのまま残されています。1818年ですからあと2年、2018年に「きよしこの夜」は200周年を迎えることになります。200年というと長いように思うかもしれませんが、バッハやモーツァルトが活躍した時代はもっと昔ですし、今年の大河ドラマの主人公だった真田信繁はさらに前の時代の人です。その他の有名なクリスマスキャロルの多くも19世紀から20世紀にかけて作られていますから、私たちがよく知っているクリスマスキャロルは案外と新しいものなんですね。
では、一番古いクリスマスの歌はなんだろうと思いませんか。実はこれがちゃんと記録にあるのですね。イエス・キリストが生まれた時のことが書かれている『ルカ福音書』2章の14節に次のような記述があります。「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ。」(『聖書』新共同訳より)これは天使が羊飼いにキリストの降誕を告げた後、天の大群が語ったものです。クラシック音楽に詳しい方なら、これが「ミサ曲」の中の一つ「グローリア」の冒頭のことばであることもご存知でしょう。
教会で古くから歌われ続けているのは旧約聖書の中の「詩編」という賛美の歌を集めたもので、何千年の歴史があります。「詩編」はクリスマスはもちろんキリスト教の最も大切なお祭りであるイースター(復活祭)にも、それどころか毎日、教会で歌われているもので、教会の愛唱歌と言っても過言ではありません。今年のクリスマスには教会でどんな詩編が歌われるのか、ぜひ、耳を澄まして聴いていただければ嬉しい限りです。(典礼音楽研究家)