スペイン巡礼の道——エル・カミーノを歩く 42


古谷章・古谷雅子

6月1日(木) レオン~サンティアゴ・デ・コンポステーラ

移動距離:鉄道で400km
行動時間:5時間半

予約した列車は午後2時過ぎ発車なので、午前中にレオン大聖堂(サンタ・マリア・デ・レグラ大聖堂)に行った。ブルゴス大聖堂に次ぐ、スペイン・ゴシック様式の優れた聖堂建築と言われている。壁を最小限に減らし、内部には世界最大級の規模のステンドグラスの窓から光が降り注いでいる。ステンドグラスの合計面積は1700㎡以上に及ぶそうだ。洗練された美しい煌めきはこの世ならぬところとこの世をつなぐ橋のような力そのものだと感じる。殆ど思考の逡巡や吟味の余地を残さない圧倒的な空間だ。

聖堂を出て、一転して世俗的な「市場」に行ってみた。卸ではなく誰でも買える。食材を見るのはどこでも興味深く楽しい。豚足をはじめ豚のさまざまな部位が多いのにちょっと驚く。

オスタルは12時チェックアウトなので荷物を取りに戻り、車中のおやつや飲み物をスーパーマーケットで調達しがてら駅に向かった。1度目の旅の後、サンティアゴからマドリッドまで一等車に逆方向で乗った。その時は疲れて殆ど寝てしまい途中の記憶がない。今回は二等車。座席は日本のように回転はしない。車両の真ん中だけ向かい合わせで半分が進行方向と逆向きになる。私たちの席はその真ん中逆向きで、大きなテーブルがあるものの向かいの人にはちょっと気を使うが、途中で結構入れ替わりが無駄なくある。renfeの運営は効率よし、である。

道中後半にかなり高齢の素朴な雰囲気のご夫婦が座った。列車が大きな川に差し掛かると、男性が突然「Rio Sil!」と指差した。私たちに教えてくれたのだ。シル川は1度目の旅でポンフェラーダの町から出る時に渡ったはずだ。しかし鉄道で渡るところは町中ではなく自然の中の歴々たる流れにかかる高架橋だ。男性はこの川にとても感動しているようだ。それからは堰を切ったように風景の説明をしてくれた。私たちは挨拶と食べ物の注文以外のスペイン語は分からないのだ。そのことは通じたようだがモノともせずに迸るようにスペイン語で話してくれる。スペインの東、西、そして南のポルトガルへの三叉路である地点、植物が枯れている現象、さらに話は長崎と広島の原爆のこと、アメリカへの批判など、私たちも引き込まれ何故かかなりのことが理解できたのは今考えると不思議だ。またまさにスペイン現代史を生き抜いてきたにちがいないお歳の方の話を聞きたかった。共通の言葉がないことを心から残念に思った。ついに列車が緑麗しいガリシア州に入った。男性は景色に見入り、「Galicia!」と感動的にうなずき、まもなく下車して行かれた。

さて、2015年の旅で7月22日にサンティアゴ・デ・コンポステーラに着いた時、大聖堂の前で抗議集会らしきものを見た。翌日マドリッドのホテルのテレビで、それが2013年7月24日にここで79名の死者を出した鉄道脱線事故の補償を求めるものだとわかった。聖堂の中で追悼ミサが行われていたらしい。そんなことを思い出しているうちに私たちの乗った高速列車は無事に定刻に到着。駅には日本人女性Sさんが待っていてくださった。

実は出発前に、この地に住み、ガリシアのことを紹介しているSさんと連絡を取っていた。私たちは前回時間がなくてできなかった3つのことを体験したいと思っていた。

1 「モンテ・ド・ゴソ(歓喜の丘)」再訪
2 「ボタフメイロ(香炉)」の焚かれる巡礼者のためのミサ参列
3 「フィステーラ(地の果て)」訪問

順調に歩き予備日が余れば、という不確定要素が大きいので、宿や交通機関について問い合わせたのだ。大変親身に相談にのってくださり、この後すべて順調に行ったのはSさんのお陰であった。この時期に大規模な医学学会がこの地であるために早くから宿泊施設が満杯になり、Sさんのお知り合いの方が所有されているアパートの一室、いわゆる「民泊」を手配してくださっていた。実際アルベルゲすらあぶれるほどだったらしい。

宿は大聖堂に近い便利なところだ。3つの居室の中のシャワー・トイレ付きの部屋に5泊できることになった。共用のタブ付きバスルームやキッチンもある。オーナーはここにはいないが、毎日掃除、タオルの交換もあるしWi-Fiも使えるし、他の同宿者も静かで、大変快適に過ごせた。

この日は宿に落ち着いた時刻が遅く、近所のバルで簡単に夕食を済ませた。

これで、「エル・カミーノのフランス人の道」を不規則な順ではあるが歩きとおしたことになり、記録は終わりとなるのだが、前述した3つ宿題は巡礼路と分かちがたいことなので、これらを含む最後の4日間のことも補足として記録に入れようと思う。

 

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