酒は皆さんとともに

ランファン・ジェズュ


12月25日はクリスマス!イエス様の誕生をお祝いする日です。イエス様の誕生に関する物語で印象深い場面は人それぞれ色々とあるでしょうが、中でも羊飼いや東方の三博士による幼児イエスの礼拝は欠かせません。アッシジの聖フランシスコに由来するとされる馬小屋の模型、いわゆるプレゼピオのおかげで、この場面は私たちにとっても馴染み深いことでしょう。プレゼピオは14世紀に急速に広がりを見せるのですが、その背景には幼児イエスへの信心の高まりがありました。

聖書にも描かれている(マタ2・11)ように、イエスはベツレヘムでお生まれになった時から礼拝されていました。幼児イエスを崇める伝統は古代から中世にかけても継承され、それは様々な美術作品からも見て取れます。こうした幼児イエスへの信心は、西欧中世で深められ、独自の発達を見せることとなります。14世紀、神々しい輝きを見せる幼児イエスの姿は、「トレチェント」と呼ばれる発展期を迎えたイタリア美術によって美的に表現され、スウェーデンの聖ビルギッタの幻視などにより霊的な豊かさを得ました。幼児イエスの神性の強調はさらに強まっていき、やがて、飼葉桶に寝かされているのではなく、立ち上がって人々を祝福するかのような像が生まれます。こうした信心は特にスペインで顕著であり、スペインと神聖ローマ帝国を支配して「太陽の沈まない帝国」を築いたハプスブルク家の支配を通じて世界中に広がりました。その一例として、プラハの幼子イエス像やセブ島のサントニーニョ像を挙げることができます。このように、西欧キリスト教は長い歴史の中で幼児イエスへの信心を発達させてきました。今回は、そんな幼児イエスを題材としたワイン「ランファン・ジェズュ」を紹介します。

幼児イエスがラベルに書かれている「ランファン・ジェズュ」は、ワインの名産地として知られるフランスのブルゴーニュ地方に位置するボーヌで造られています。15世紀半ば、ブルゴーニュ公フィリップ3世の側近であったニコラ・ロランは、ボーヌに「神の家」(Hôtel-Dieu)と呼ばれる救貧施設(ホスピス)を設立し、その運営費をワインの売り上げで賄おうとしました。そんなニコラ・ロランもまた幼児イエスへの信心が強かった人物であったようで、画家のヤン・ファン・エイクに『宰相ロランの聖母』と呼ばれる絵を描かせています。ちなみに、今日、その絵はルーヴル美術館に収蔵されており、ブルゴーニュ・ワインの発展に寄与したロランの「神の家」は世界遺産に登録されています。

幼児イエスへの信心の強い有力者ニコラ・ロランによって「神の家」が建てられたボーヌは、後に、「ブルゴーニュ・ワインの首都」と呼ばれるほどの名声を博します。そんなボーヌの紋章は、幼児イエスを抱えた聖母子像です。世界的に評価の高いブルゴーニュ・ワインですが、その発展の陰には、幼児イエスの信心を抱いていたニコラ・ロランという人物がいたのです。

石川雄一(教会史家)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

eighteen − 12 =