大地の物語


伊藤 一子(レクレ-ション介護士、絵本セラピスト)

伊豆半島はユネスコ世界ジオパークに認定されました。フィリピン海プレートが本州の下に沈み込むところで、2000万年前から活発な火山の活動があり、半島となりました。伊豆には、ジオサイトがたくさんあります。私の住む伊豆高原もジオサイトの一つです。伊豆高原は伊豆東部火山群の中にあり、4000年前の大室山の噴火で流れ出した多量の溶岩の台地に、波や風や鳥が、虫や植物の種子を運び、やがて緑の樹林となりました。今は、人の手が加わり、別荘地や観光スポットがあります。

荒れ果てた野原に、ポツンと一つ、岩山がありました。ある時、小鳥の柔らかさを知り、山は小鳥と一緒にいたいと願いました。長い年月をかけて、岩山は緑豊かになり、小鳥が営巣する山となるという物語絵本があります。「ことりをすきになった山」(エリック・カール:絵、アリス・マクラーレン:文、ゆあさふみえ:訳、偕成社)です。

ジョイという小鳥は、旅の途中で、岩山で羽を休めました。小鳥の柔らかな感触に恋して、岩山は留まることを願います。食べ物も水もない岩山には留まれないが、毎年ここを訪れるとジョイは言います。そして、小鳥の命は短いので、自分の子孫にジョイの名を受け継ぎ、毎年ここを訪れることを約束します。約束通り、ジョイは毎年、岩山を訪れ美しい歌を聴かせ、また去っていきます。

ジョイが去ると、寂しさに耐え切れず、岩山の心臓が爆発し、涙がとめどなく流れました。涙は川となり、山を潤していきます。ジョイは山を訪れるたびに、植物の種を運んできました。ジョイが最初に運んだ種は根付き、山の心臓の傷の割れ目を塞ぎ、痛みを取り除き、大樹となりました。途方もない時間の経過の中で、山は緑豊かな、命溢れる森となりました。ジョイが営巣を初めました。やがて、雛がかえり、育ち、飛び立っていきました。山の願いは叶ったのです。

本気で相手を変えようと思うならば、まず自分自身の心臓が爆発し、川となるほど涙を流す苦しみを受ける覚悟が必要なようです。自ら負った傷から水が流れ、緑の山へ変わるきっかけとなった山の変化は、小鳥が種を運ぶ行動を促していきます。

「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる。」というエリック・バーン(交流分析を提唱したカナダの精神科医)の名言があります。私たちは、自分のことはさておき、相手に代わってほしいと願いますが、自分を変えられるのは自分自身しかありません。自分が変わることで、相手との関係性に変化を及ぼすことはできるのかもしれません。人間関係に疲れたとき、私がいつも思い出す言葉であり、本気で相手に向き合いたいと思うとき、まず自らに問うのは、この絵本の物語です。

伊豆高原は4000年の時を経て、安息角の美しい山体を持つスコリア丘の大室山、マールの一碧湖、柱状節理が見られる城ケ崎海岸などの、美しい観光地となりました。城ケ崎海岸には、まだ人手の入らない照葉樹林が残っています。溶岩台地が造成され、多様な生物が生息する地となる大地の物語を思う時、「小鳥をすきになった山」の物語が、実感を伴って心に響いてきます。大地の公園としてのジオパーク、まだまだ知らないことがたくさんあります。

  秋燕や波濤の先は流人島

 

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