『エルサレムの歴史と文化――3つの宗教の聖地をめぐる』


『エルサレムの歴史と文化――3つの宗教の聖地をめぐる』
浅野和生:著、中公新書、2023年
定価:1100円(税込み)   320ページ

 

エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラームの聖地です。これらの宗教の信者数は世界人口の半数を超えているので、エルサレムは人類の半分以上の人々にとっての聖地だと言えます。そんなエルサレムは聖書の時代から今日まで様々な勢力が衝突する係争地となってきました。

旧約聖書にはイスラエルの民と周辺諸勢力との争いが記されています。その後、新約聖書の時代までにエルサレムを中心とするイスラエルでは、ギリシア=ローマの影響力が拡大していきました。新約聖書からはユダヤ人とローマ人の緊張関係を読み取ることができますが、イエスの活動した後の世紀後半から世紀前半にかけてユダヤ人はローマ帝国に反旗を翻します。この二回の反乱に敗北したユダヤ人はエルサレムを追われることとなります。世紀にキリスト教がローマ帝国の国教となると、エルサレムはキリスト教の聖地として整備が進められ、帝国の東西分裂後もビザンツ帝国領として発展します。ですが、世紀にイスラームが興ると、エルサレムはイスラーム勢力の手に落ちます。11世紀末に西欧では十字軍がおこり、カトリック勢力がエルサレムを奪還し、エルサレム王国を建国します。エルサレム王国を中心として成立した十字軍諸国ですが、度重なるイスラーム勢力からの圧力により中世の間に滅亡し、エルサレムは再びイスラームの支配下に入りました。近代に入ると欧米列強でユダヤ人の影響力が拡大し、エルサレムを中心にユダヤ人の国家であるイスラエルを建国しようとする運動が盛んになります。そして第二次世界大戦後の1947年、イスラエルは独立を宣言しますが、それを認めないアラブ=イスラーム勢力は中東戦争をおこしました。21世紀に入ってからもパレスチナ問題など、エルサレムを巡る争いは沈静化の兆しを見せません。

ここまで古代から現代に至るまでのエルサレムを概観しましたが、そんな争いの絶えないこの街の建築を中心とした文化・芸術史を紹介するのが『エルサレムの歴史と文化――3つの宗教の聖地をめぐる』です。副題には「3つの宗教の聖地をめぐる」とありますが、著者の専門はビザンツ美術であるため、ページの多くはキリスト教関連の建築と文化に焦点が当てられています。聖書の物語を演出する装置としての聖地という観点から批判的にエルサレムの聖跡を巡る本書は、普通の観光ブックとは違った視点でエルサレムの歴史と文化を学ぶことができます。多数の図版と共にエルサレムの史跡を紹介する本書を読んで、エルサレムに旅している気分に浸ることもできるでしょうし、実際に本書を手にしてエルサレムを巡るのも楽しいでしょう。

石川雄一(教会史家)

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