アート&バイブル 88:「聖母子と洗礼者ヨハネ」と「聖家族」


ポンペオ・バトーニ『聖母子と洗礼者ヨハネ』『聖家族』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

図A『聖母子と洗礼者ヨハネ』(1738~40年 キャンバス油彩 131×97cm 個人蔵)

この二つの絵の作者ポンペオ・バトーニ(Pompeo Batoni, 生没年1708~87)はローマに生まれ、同地で没し、その画業はほとんどローマでなされています。

長年にわたって教会の美術委員会の重責を担い、数多くの作品を残し、また諸外国にパトロンを得て、多くの肖像画を描いています。彼の作風は古代の美術作品に対する豊富な学識によって、その様式を洗練させ、昇華させるところにありました。

 

【鑑賞のポイント】

(1)図Aの聖母子と洗礼者ヨハネがともにいるという構図は数多く描かれていますが、ここでの幼子は白く短い上着をまとっており、洗礼者ヨハネに祝福を与えるというポーズです。洗礼者ヨハネはシンボルである「見よ、神の小羊」というリボンをつけた十字架をもっています。そしてあどけない表情でイエスを見つめています。

(2)また、聖母は幼子イエスのわき腹と足にそっと手を添えているという姿でいつくしみ深いまなざしを同じく幼い洗礼者ヨハネに注いでいます。

図B『聖家族』(1760年 キャンバス油彩 99×74cm カピトリーノ絵画館所蔵)

(3)図Bの『聖家族』という作品は秀逸です。サイズは99×74cmと小さいものですが、描かれている聖母子の姿は神秘的な美しさがあります。深い漆黒の中に聖母子の姿が浮かび上がっています。幼子イエスが聖母に抱きつき、母の顔をあどけない表情で見上げています。聖母は右手で幼子のわき腹を抱き、左手で足に触れていますが、その左手の描き方が繊細で、かつ、そのしぐさによって、幼子をいとおしんでいる様子が巧みに描かれています。この脇腹と足にやがて槍や釘によって傷つけられることを予感しているような深い聖母の表情です。この絵はコレッジョの聖母の礼拝にも匹敵する聖母子の麗しく、深いつながりを感じます。明暗の深さはカラヴァッジョを思わせます。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

8 + 9 =