12か月の未来図


日本では、教育の改革が叫ばれ、小学校から英語教育が導入され、2020年から大学入試が変わるということが話題になっています。また、教育困難校という言葉もよく聞かれるようになりました。これは日本だけではなく、世界中で問題になっているのだということ知らしめる映画に出会いました。その映画は「12か月の未来図」です。今回はこの映画をご紹介したいと思います。

父親は国民的作家、妹は彫金師として活躍しているという典型的なブルジョア家庭で育ったフランソワ・フーコー(ドゥニ・ポダリデス)は、フランスの名門校アンリ4世高校で国語を教えるベテラン教師です。ある晩、父親の最新刊のサイン会にきていた人々に対し、教育改革論を熱心に語っていました。その場でパリとパリ郊外の学校における教育格差を解消するためには、問題校にベテラン教師を派遣し、新米教師を支援するという彼のプランを披露していました。その席に偶然同席した女性アンヌは、国民教育省で教育困難高問題に取り組む専門家です。フランソワの提案を気に入り、さっそく教育優先地域になるバルバラ中学への1年間の派遣を依頼します。

その学校にいたのは、教師への敬意などまったくなく、大声でしゃべり続ける生徒たちと、問題児はどんどん退学させればいいと公言してはばからない若手の教師たちでした。初めての授業で行われた書き取りのテストでは惨憺たる結果となり、これまで生粋のフランス人を相手にエリート校で教えてきたフランソワの価値観は覆され続けます。さまざまなルーツを持っている生徒たちの名前を正確に読み上げるのにも一苦労する始末です。カルチャーショックに打ちのめされながら、ベテラン教師としての意地で生徒たちの名前を一晩で覚える宿題を自らに課していきます。

クラスの問題児は、反抗的でお調子者のセドゥ(アブドゥライエ・ディアロ)です。好きな女の子を追いかけ回す幼い一面もあるもののトラブルを繰り返すので、教師の間では退学候補の1人として目をつけられています。そのセドゥは、大好きな母親が病気で心が不安定なためにそのような行動をとっているのだと知ります。彼が中退させられたら、社会から落ちこぼれ、二度と這い上がることができないと考えたフランソワは、いままでに感じたことのない父性と使命感にかられ、行動を起こします。

移民、貧困、保護者の無関心など、不幸な環境の中で生きる彼らには、これまでフランソワが教えてきた学校での教育方法は通用しないと悟っていきます。そして、生徒自らが自分の能力と未来を信じられるようになるための意識改革に取り組みはじめます。それによって「勉強しても意味がない」と思っている生徒たちは、知的好奇心と自信を取り戻し、勉強意欲にあふれた生徒になっていきます。

順調に進み出したある日、遠足で訪れたベルサイユ宮殿でセドゥが問題を起こします。指導評議会では猶予なしの退学を宣告されてしまいますが、ベテラン教師のプライドと良識ある大人として、大切な教え子を守るためにフランソワは立ち上がります。

さて、ここからは観てのお楽しみです。セドゥの退学はどうなるのか、フランソワとその他の先生たちとの関係は? そして12か月後、生徒たちとフランソワの関係はどうなっているのか、ぜひ劇場に足を運んで観てください。そこには教師としての誇りとプライドをかけた戦いがありました。教師という立場で、教育困難校の問題を解決しようとする1人の教師の姿があります。

主人公の教師であるフランソワを決して英雄的には描かれていません。現実に打ちのめされながら、自分の考える教育の正しさを求めることに躍起となる1人の人間が映し出されていきます。本当の教師とは何かを深く考えさせられる映画でした。

(中村恵里香、ライター)

4月6日(土)より岩波ホール他全国ロードショー
©ATELIER DE PRODUCTION - SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017
監督:オリヴィエ・アヤ=ヴィダル
出演:ドゥニ・ポダリデス、アブドゥライエ・ディアロほか
配給:アルバトロス・フィルム
公式ホームページ:http://12months-miraizu.com/


12か月の未来図” への1件のフィードバック

  1. 教育は大事な仕事。
    未來をこどもたちに託すのですから。
    知識だけでなく、どんな大人たちに未來を託すのか。
    心豊かな自由な広がりを持ち
    目の前の人に笑顔で優しく心を寄せることができる
    人たちにわたしは、未來を託したいと思います。

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