アート&バイブル 10:復活したキリストの聖母への出現


グエルチーノ『復活したキリストの聖母への出現』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

図1:グエルチーノ『聖ペトロニラの埋葬(聖ペトロニラの祭壇画)』(1623年、ローマ、カピトリーノ美術館所蔵)

イタリアのバロック画家、グエルチーノ(Guercino, 生没年 1591~1666)を紹介したいと思います。ゲーテは「彼の筆の軽妙さ、清純さ、円熟さはただ驚嘆のほかはない」と絶賛し、スタンダールは「最後の大画家」と讃えています。2015年に国立西洋美術館で展覧会が行われましたが、それが日本でグエルチーノの作品が紹介された初めてのことでした。グイド・レーニ(Guido Reni, 1575~1642)とともにイタリアン・バロックの双璧と称されていますが、これまであまり知られていないことも事実です。

グエルチーノという名はこの時代の画家たちによくあるように通称で、本名はジョヴァンニ・フランチェスコ・バルビエーリ(Giovanni Francesco Barbieri)です。グエルチーノとは「やぶにらみ」という意味で、彼が斜視であったことからつけられたあだ名です。グエルチーノはボローニャとフェラーラの間にあるチェントという村(現在は市ですが)に生まれ、17歳でボローニャ派の画家に弟子入りしました。カラヴァッジョ(Caravaggio, 1571頃~1610)やカラッチ一族によって扉を開けられたバロック美術を発展させるという功績をあげました。

彼自身も認めているように初期のスタイルはアンニバーレ・カラッチ(Annibale Carracci, 1560~1609)の影響を受けていますが、後期の作品には彼のライバルとも言われているグイド・レーニの作風に近づいてゆき、より明るく明瞭な絵を描くようになりました。彼はスケッチの点でも超一流で、かつ仕事が早いことでも有名でした。1621年から1623年まで、ボローニャ出身の教皇グレゴリウス15世(在位年 1621~1623)に招かれ、ローマの宮殿や教会に多くの作品を描きました。彼の最高傑作は『聖ペトロニラの埋葬(聖ペトロニラの祭壇画)』(図1)と言われています。

 

図2:グエルチーノ『復活したキリストの聖母への出現』(1628~30年頃、イタリア、チェント市立絵画館所蔵)

【鑑賞のポイント】

『復活したキリストの聖母マリアへの出現』(図2)は、聖書には書かれていない伝承に基づいたエピソードをモチーフにしています。聖書には、墓の近くでマグダラのマリアに姿を見せたこと、ユダヤ人を恐れ、鍵をかけて閉じこもっていた弟子たちに姿を現したことなどが記されています。しかし、復活の朝、キリストは最初に、誰よりもキリストを愛し、また誰よりもキリストを理解し、誰よりもキリストを信じていた聖母マリアにこそ出現したという言い伝えもあるのです。

 


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