家族と希望の物語


晴佐久昌英(SIGNIS Japan 顧問司祭)

シグニス東アジア会議参加者のみなさん、ようこそ日本へ。

福音宣教のためにメディアの現場で働いている仲間たちが、こうして一つに集まることができて、ほんとうにうれしく思います。

今日このような集いを持つことができたのは、神がそうお望みになったからです。私たちは神の望みどおりに、顔と顔を合わせて一つに集まらなければなりません。なぜなら、私たちは、家族だからです。互いに異なった国で生まれ育ち、異なった活動をしていますが、私たちは、神によって結ばれた家族です。それも、血縁の家族以上の家族です。

キリストは、争い合うこの世界を救うために、新しい家族をもたらしました。血縁を超えた、神が結ぶ家族です。異なった人間同士であっても、無条件に受け入れ合い、無償で与えあい、すべての恵みを分かち合う、キリストの家族です。

使徒言行録の2章にある通り、初代教会のキリスト者たちは、持っている物を分け合い、家々に集まって一緒に食事をしていました。その姿は、見えない神の国が始まっていることの見えるしるしとなって、当時の人々に大きな影響を与えました。キリスト者たちが、血縁ではないのに血縁の家族以上の家族となって助け合い、共に生きる姿は、人々に大きな共感と感動を与え、信頼と尊敬を集め、それゆえに日々仲間が増えていったのです。キリスト教は、その始まりから、とても具体的な、新しい家族運動として広がっていったのです。

キリスト教のそのような本質は、二千年たった今でも変わっていません。もしも現代の教会が、この世の冷たい組織となり、掟と慣習に縛られた原理主義的な宗教となってしまって、人々からの共感と信頼を得られていないならば、もう一度、キリスト教の原点である家族運動に立ち返らなければなりません。すなわち、キリストを中心として、共に祈り、一緒に食事をし、具体的に助け合う、暖かくて普遍的な家族づくりです。

私は今、とても小さな試みではありますが、そのような家族づくりにチャレンジしています。名付けて、「福音家族」づくりです。「福音家族」とは、キリスト者や求道者が、キリストの名のもとに「血縁を超えた福音的家族」をめざす集いのことです。同じ神の子として信頼し合い、最低でも月に一度は一緒に食事をしているならば、「福音家族」と呼ぶことにしています。すでに、心の病を抱えている人たちの福音家族や、福音を語り合う牧師と神父の福音家族、ホームレスと共に食卓を囲む福音家族など、14の家族がいます。

福音家族の合言葉は、「家族ならどうするか」です。すなわち、「今目の前にいる人が、もしも自分の血縁の家族なら、どのように対応するか」を常に考え、そのように行動するということです。家族なら、好き嫌いを越えて一緒に食事するでしょう。家族なら、見返りを求めずに贈り合うでしょう。家族なら、正直に語り合い、けんかしても赦し合うでしょう。家族なら、家族のだれかが困っているなら、当たり前のように助けるでしょう。それは掟などではなく、とても自然な愛情であり、もしも全世界がそのような福音家族になったら、あらゆる問題は解決するはずです。

現代の日本のカトリック教会は、とても閉鎖的で、新しい人を受け入れようとするモチベーションが低いのが現状です。日本では、人口の99パーセント以上がキリストの福音に触れていないにもかかわらず、開かれた教会を目指すことなく、救いを求める人々のニーズにこたえることができない現場が多いのは、教会がキリストの家族になっていないからであり、それゆえに、人々を家族として受け入れ、血縁を超えた家族として共に生きる喜びを知らないからにほかなりません。

晴佐久昌英神父

いうまでもなく、家族を家族たらしめているのは、信頼関係です。したがって、教会が家族として成長していくためにも、この信頼関係が大切です。たとえ裏切られても信じるのが家族であり、試練の時こそいっそう信じ合うのが家族です。そのような信頼関係は、人間の条件や取引で生まれるものではありません。それは、神との信頼関係によって結ばれるものであり、お互いを神が結んでいるという信仰によって生まれるものです。

私は、この信頼関係こそが、最大かつ最良のメディアだと考えます。

メディアとは、何かを伝える道具ではなく、人と人を福音的に結ぶ力だからです。言葉も情報も、単に流せば自動的に伝わるというものではありません。昨今のフェイクニュースを見るまでもなく、信頼関係を持てないメディアが流す言葉や情報は、かえって世界を混乱させ、人々を分断していきます。真のメディアとは、人と人を結ぶメディアであり、人と人の間に信頼関係をもたらすメディアであり、そのようなメディアによって初めて、言葉と情報が意味を持つのです。

そこで、このように言うことができます。キリストこそが最高のメディアである、と。キリストは、神と人を結ぶメディアであり、人と人を結ぶメディアであり、キリストの家族を生み出すメディアです。私たちは、このキリストを信じ、このキリストと結ばれることで、福音的メディアとなることができるのです。

まずは、私たちシグニスの仲間たちが、真の家族になりましょう。共に祈り、共に語り合い、共に食事をして、神の国のしるしとなりましょう。私たちが信頼関係を育てて、私たち自身が福音的メディアとなり、血縁を超えた福音的家族の可能性を示すことができるならば、まさしく現代社会の希望となることでしょう。

それこそが、家族と希望の物語なのです。

 

(この記事は、第5回シグニス東アジア会議のパンフレットより転載しました)

 


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