この世界の片隅に

日本カトリック映画賞という賞があるのをご存じでしょうか。日本カトリック映画賞は、1976年以来、毎年1回、前々年の12月から前年の11月までに公開された日本映画のなかで、カトリックの精神に合致する普遍的なテーマを描いた優秀な映画作品の監督に贈られるものです。今年も受賞作が発表されました。「この世界の片隅に」です。

かなり話題になっている作品でもありますし、すでにご覧になった方も大勢いらっしゃるでしょう。アニメーション映画だからと敬遠されている方もいらっしゃるかもしれません。そんな理由で敬遠されている方々にぜひ見ていただきたい映画として紹介させていただきたいと思います。

昭和8年から終戦後すぐまで、広島県広島市江波に住む本当にどこにでもいそうなちょっとドジで、絵の大好きな少女が軍港の町・広島県呉市に嫁ぎ、第二次世界大戦中にどのように生き、何を感じたかということを、こうの史代の原作を元に忠実に再現したアニメーション映画です。

この映画は、決して声高に反戦を歌っている映画ではありません。本当にほんわかした雰囲気の中、いのちとは何か。戦争とは何かを問いかけています。

主人公すずの夫周作が4年生の頃、世界で軍縮が決まり、海軍で働く人たちは職を失います。その当時のことを思いだし、「大事じゃと思っとったあの頃は、大事じゃと思っていたが、大事じゃと思っていた頃が懐かしい」と母の言う言葉。

絵を描くことの好きな主人公すずは、丘の上の畑で、呉港に停泊している軍艦の様子を何気なくスケッチしていると憲兵に見つかり、諜報活動をしているとつるし上げを食います。普段のすずを知らない人は、軍港の絵を描いているだけで、大まじめに諜報活動だと決めつける世の中が戦争です。戦争というものがいかに人びとを傷つけ、尊いいのちが失われるかを描いています。

毎日、何回も空襲に襲われる呉の町ですが、6月呉工廠造兵部が空襲に襲われ、姪の晴美を失い、自身も右手を失っても、けなげに生きようとします。それに追い打ちをかけるように広島に原爆が落ちます。父や母、妹を心配するすずですが、右腕をなくしたすずは広島まで行くことはできませんでした。

そして8月15日、終戦を迎えます。終戦の詔勅はすずに大きな衝撃を与えます。

「あっけのう人はおらんようになる。おらんようになると言葉が届かんようになる。飛び去っていく。うちらのこれまでが。それでいいと思ってきたものが。がまんしようと思ってきたことが。(中略)ぼうっとしたうちのままで死にたかった」

これがすずの終戦を迎えた際の本音です。

今も世界のどこかで戦争が行われています。それは国と国だったり、民族同士の戦いだったりしています。本当に戦争は必要なのか。なぜ人と人が戦わなければいけないのか。

軍港の町呉を舞台にした庶民の生活から今を考えてみてはいかがでしょうか。

日本カトリック映画賞の授賞式が5月20日土曜日12時30分からなかのZERO大ホールで行われます。上映後、受賞式とトークが行われますので、ぜひ足を運んでみてください。

チケットは聖イグナチオ教会案内所、スペースセントポール、サンパウロ書店、高円寺教会天使の森、ドン・ボスコ社で扱っています。

そこまで足を運べないという方は、SIGNIS JAPAN公式ホームページhttp://signis-japan.orgよりお問い合わせください。

 

監督・脚本:片渕須直/原作: こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)/音楽:コトリンゴ/企画:丸山正雄/監督補・画面構成:浦谷千恵/キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典/美術監督:林孝輔/プロデューサー:真木太郎/製作統括:GENCO/アニメーション制作:MAPPA/配給:東京テアトル/製作:「この世界の片隅に」製作委員会/©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

公式ホームページ:Konosekai.jp

出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外(特別出演)


バーニングオーシャン

2010年4月20日、アメリカのルイジアナ州にほど近いメキシコ湾沖の石油掘削施設ディープウォーター・ホランゾンで未曾有の大事故が起こったことを覚えていらっしゃるでしょうか。日本でも大きなニュースになり、油にまみれたペリカンの映像が今も目に焼き付いています。

最先端テクノロジーが搭載された石油プラットフォームといわれたディープウォーター・ホライゾンの内部で何が起こったのか。突然の爆発に襲われた126人の作業員はどのように行動したのか。その安全性は本当に大丈夫だったのか。ニューヨーク・タイムズの記者が生存者一人一人に克明にインタビューした記事に基づいた映画が公開されます。タイトルは「バーニングオーシャン」です。

トランスオーシャン社のエンジニア、マイク・ウィリアムズ(マーク・ウォールバーグ)は、愛する妻フェリシア(ケイト・ハドソン)、幼い娘と別れ、メキシコ湾沖の石油掘削施設ディープウォーター・ホランゾンで電気技師として、3週間の務めを果たすため、妻の運転でヘリポートを目指します。

そこには、施設主任ジミー・ハレル(カート・ラッセル)、アンドレア・フレイタス(ジーナ・ロドリゲス)の姿もありました。

126人が働く、ディープウォーター・ホランゾンは、最新テクノロジーを備えた巨大施設ですが、問題が山積の施設でもありました。電気系統の故障が相次ぎ、次から次へと修理が必要になってきます。

石油掘削を依頼しているBP社は、工期の遅れを問題とし、管理職のヴィドリン(ジョン・マル

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

コヴィッチ)は掘削作業終了前に必要なテストをせずに担当者を帰してしまいます。安全よりも工期を重視した結果、掘削泥水の除去作業が開始されます。作業員は「これでもうすぐ家に帰れる」と活気づきます。その夜、海底のメタンガスが猛烈な勢いでライザーパイプに吹きあげた影響で、大量の原油が会場に漏れ出す事故が起こります。

事故の様子はぜひ映画館でご覧ください。実際のディープウォーター・ホランゾンを再現し、その壊れゆく姿は釘付けになること請け合いです。その時、人びとは何をし、どう動いたかも克明に描かれています。脱出劇もその克明さに胸打たれます。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

そばで海底から泥の積み込みを待っていた船に救助された人びとは、船上から崩れゆくディープウォーター・ホランゾンを見守ります。作業員一人一人の名を呼び、その犠牲者の持ち場が集中していることに動揺した作業員たちは、「主の祈り」を唱えます。ここに、祈りの重要さが訴えかけられます。

この映画は、安全とは何か。家族とは何かを訴えかけると共に、祈りによる救いが描かれているように思いました。

ハリウッド映画の超大作というと、スケールの大きさだけが話題になりますが、その裏にある訴えかけに目を向けることも大事だと教えられる映画でした。

中村恵里香(ライター)

スタッフ
監督:ピーター・バーグ/脚本:マシュー・マイケル・カーナハン、マシュー・サンド/製作ロレントィ・ディ・ボナヴェンチュラ、マーク・ヴァーラディアン、スティーブン・レヴィンソン、デヴィッド・ウォマーク

キャスト
マーク・ウォールバーグ、カート・ラッセル、ジョン・マルコヴィッチ、ジーナ・ロドリゲス、ディラン・オブライエン、ケイト・ハドソン

原題:Deepwater Horizon、配給:角川映画

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

2017年4月21日、全国ロードショー

公式サイト :http://burningocean.jp/


ターシャ・テューダー——静かな水の物語

ターシャ・テューダーという絵本作家をご存じでしょうか。実は、私はその存在すら知りませんでした。「アメリカで最も愛される絵本作家」、「スローライフの母」という売り文句にひきつけられるように見に行って、びっくり。こんなすてきな人がいるのだろうかと目からうろこが落ちるような気分にさせられ、ぜひ皆さんにご紹介したいと思い、この記事を書いています。

この映画は、ターシャ・テューダーの軌跡を描いたドキュメンタリー映画です。ターシャ・

©2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

テューダーは、1915年ボストンの文化人夫婦のもとに生まれました。ターシャ本人とその息子セス、孫のウィンズローを中心とした周囲の人びとの証言をもとに描き出したものです。

ターシャの生き方は魅力に溢れています。70年間絵本作家として活躍し、子育てを終えた56歳の時に彼女の考えるアメリカが最も輝いていた時代1830年代のようなコテージを、アメリカらしい土地としてターシャが選んだバーモント州に土地を購入。ターシャのものがたりの主人公、コーギー犬から名を取ったコーギー・コテージを息子のセスに設計をさせ、そこに移り住みます。

そこでの生活は本当に「大草原の小さな家』のような生活です。91歳という年齢なので、すべての動作はスローモーですが、彼女のいう「私はスティルウォーター教よ」という言葉に思わず納得させられるものがあります。スティルウォーター=“静かな水”は、大きな波に流されることなく、静かに前進するという彼女の生き方をあらわしています。

この映画の中で、ターシャは、「忙しすぎて心が迷子になっていない」と私たちに語りかけています。この言葉は、時間に追われ、仕事に追われている私たちにゆったりお茶を楽しみ、自然に触れる生活の大切さを語りかけています。

 

また、「誰でも思い通りの人生を送ることができるのよ」とも語りかけます。「美しい世界を謳

©2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

歌しないのは間違い」「人生は短いから不幸でいる暇はない」「決してあきらめないことが肝腎」「人生は忍耐の連続だった」「人生は小さな選択の積み重ね」とさまざまな示唆を与えてくれます。

 

本当のスローライフとは何なのか。決してあきらめない人生とは何か。この映画の中で、彼女の生き方と言葉の中に答えが隠されているようです。

 

そして、彼女は、「これほどすてきな人生はないわ」と締めくくるのです。人生の終焉に向かうまでの日々の中で、こんな言葉を紡ぎ出せるターシャという人の素晴らしさを感じてみてはいかがでしょうか。

2017年4/15(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー
配給:KADOKAWA

(中村恵里香=ライター)


草原の河

昨年から今年にかけて、チベットを舞台にした映画を見る機会が増えています。最初に観た映画が池谷薫監督の「ルンタ」というチベット仏教の僧による焼身自殺をテーマにした映画でした。そして、中国人監督による「ラサへの歩き方——祈りの2400km」というチベット仏教の巡礼の形式五体投地を追ったドキュメンタリードラマでした。それぞれにとても考えさせられる映画でした。そして今回ご紹介する映画は、チベット人監督による「草原の河」です。

この映画の特徴の一つは、母親ルクドル役のルンゼン・ドルマ以外、ほとんどの登場人物が素人ということです。プロといっても、ルンゼン・ドルマも役者ではありません。チベットで有名な歌手だそうです。

物語の大きなテーマは家族です。中国の文化大革命に際し、僧籍を離れざるを得なかったので

©GARUDA FILM

すが、再び村から離れた洞窟で一人修行に励む祖父と、ある理由から父を許せずにいる息子のグル(グル・ツェテン)、妻のルクドル、その娘で、6歳になっても乳離れのできないヤンチャン・ラモ(役名は本名)の4人です。

詳細は省きますが、なぜグルは、父を許せないのか。母親の妊娠を知ったヤンチェンの行動。苛酷なチベットの大自然との共存。さまざまな問題をはらんで物語が展開します。

とても素人を使った配役とは思えない出演陣の演技も驚きの連続です。特に、ヤンチェンの演技は、とても6歳の少女とは思えないかわいさがあります。

監督の弁によると、この映画の出演者には事前に映画の内容を教えず、脚本も見せずに撮影が

©GARUDA FILM

始まったそうです。出演者は、この映画が何を伝えたいのか、まったく知らずに進んだといいます。1シーンごとに監督が台詞を教え、撮影が進んだといいます。

もともと、牧畜民だったグルが、本来の自分の生活の中で、台詞だけを当てはめられて、演じる。そんな方法もあるということが、ある意味驚きでもありました。

私が外国映画の楽しみのひとつに、ストーリー展開とは別に風景を楽しむこともあります。行ったこともない外国の風景をストーリーとは関係なく、楽しむことができるのも映画の一つの楽しみです。特にこの映画、チベットの大草原で、何もないようなところを描いているのですが、ロングショットで風景を描き出すことで、チベットの大草原の雄大さを感じられます。

©GARUDA FILM

私たち日本人とまったく生活習慣の異なるチベット民族の生活を垣間見られ、人間の機微に触れることのできるこの映画、映画館の大画面でご覧になることをお勧めします。

◆:4月29日(土・祝)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ

監督・脚本:ソンタルジャ/撮影:王 猛

出演:ヤンチェン・ラモ、ルンゼン・ドルマ、グル・ツェテンほか

原題:河|英語題:River|2015年|中国映画|チベット語|98分|DCP|ビスタサイズ|ステレオ

公式サイト:www.moviola.jp/kawa

(中村恵里香/ライター)


「光をくれた人」

愛の形にはさまざまな形があります。与える愛、受ける愛もそうですが、父性愛、母性愛、そして家族愛などもあります。今回ご紹介する映画はそんな愛のかたちを考えさせられる映画です。

物語は1918年第二次世界大戦中のオーストラリア西部のバルタジョウズ岬が舞台です。フランス戦線での戦いで英雄となって帰国したトム・シェアボーン(マイケル・ファスフェンダー)は、人には見せないけれども、心に深い傷を負い、孤独の殻の中にこもった状態でした。孤独でいたいとバルタジョウズ岬から160㎞離れた絶海の孤島ヤヌス島の灯台守に臨時雇いされます。

3か月後、正式採用されることが決まり、その契約のため、バルタジョウズ村に戻り数

ⓒ 2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC

日間を過ごしますが、そこで、一見明るく見えますが、やはり心に傷を持ったイザベル(アリシア・ヴィキャンベル)と出会います。

ヤヌス島に戻り、孤独な生活の中、トムは心に光を与える存在となったイザベルに感謝の気持ちを込めた手紙を送ります。その気持ちにイザベルがこたえ、手紙を交わすうちにふたりの心は通い合い、結婚し、ヤヌス島での2人の楽園のような生活が始まります。

しかし、そこには大きな挫折が訪れます。2度の流産です。一度は乗り越えられたイザベルも2度目には絶望の淵に落とされます。そんな時に島に一艘のボートが漂着し、中にはすでに息絶えた男と赤ん坊が乗っていました。自分が失った子どもが手元に帰ってきたような感覚に襲われたイザベラは子どもを育てることを決意し、ためらうトムを説き伏せます。

2年の年月が過ぎ、ルーシーと名付けられた子どもはすくすくと成長していきます。

ⓒ 2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC

ルーシーの洗礼式のためにバルタジョウズに戻った日、教会の墓地でむせび泣く女性ハナ(レイチェル・ワイズ)をトムは目にします。ルーシーはハナの子どもだったのです。自分たちのしでかしたことが罪であったという思いにさいなまれつつ、楽園の生活を守りたいトムはイザベルにも告げず、生活を守ります。

さらに2年後、灯台建設40周年の記念式典に出席するため、再び家族でバルタジョウズに渡り、イザベラはハナの存在を知ります。その後、犯したことの罪深さを意識しておののきながらも、ルーシーを手放すことのできないイザベラと、真実を告げるべきだと言うトムは対立していきます。ついにトムは、罪の意識に耐えきれず、家族を守りつつ、罪を償うための行動に出ます。イザベラを守るためにすべての罪は自分にあるとしたのです。しかし、イザベラはトムを許すことができません。収監されたトムをイザベラは信じることができず、心をとざします。

ⓒ 2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC

罪の意識をもちつつも家族を守ろうとする父性愛と、育てた子どもを愛するがゆえに夫を許せない母性愛の葛藤は、バルタジョウズ岬と孤島の美しい景色の中、みごとに描き出されています。愛のかたちが対照的な美しい映画をぜひご覧になってください。(中村恵里香、ライター)

 

監督:デレク・フランス/原作:『海を照らす光』M.L.ステッドマン著、古田美登里訳、早川書房/撮影:アダム・アーカポー/音楽:アレクサンドル・デスプラ

キャスト

マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズほか

2016年/アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド/133分/配給:ファントム・フィルム

2017年5月26日より、TOHOシネマズ シャンテ 他ロードショー

HP:http://hikariwokuretahito.com/


タレンタイム〜優しい歌

日本では、民族の違いや宗教の違いでさまざまな障害が起こるということはあまり見られませんが、今回ご紹介する映画、「タレンタイム〜優しい歌」の舞台マレーシアでは、さまざまな障害が起こることをはじめて知りました。マレーシアはイスラム国家で、さまざまな人種の人々が共存している国家です。たとえば、イスラムを信仰している人と他宗教の人間が結婚した場合、それが男女どちらであろうと、イスラム教に改宗しなければならないという事実があるそうです。

さて、この映画は、とある高校で音楽コンクール「タレンタイム」の開催が決まります。タレンタイムというのは、マレーシア英語で、学生の芸能コンテストのことだそうです。ピアノの上手なムルー(パメラ・チョン)は、両親に内緒でタレンタイムのオーディションに参加します。一方、二胡を演奏するカーホウ(ハーワード・ホン・カーホウ)。成績優秀でギターも上手な転校生ハフィズ(モハンマド・シャフィー・ナスウィップ)、そしてもう一人、耳が聞こえないマヘシュがムルーの送り迎えを担当することで、この4人を中心に話が進みます。

タレンタイムのファイナリスト7人のうちに残る3人とマヘシュ(マヘシュ・ジュガル・キショー)とともにこの映画に深みを与えているのが、その家族たちです。

© Primeworks Studios Sdn Bhd

ムルーはとても仲のよい家族に囲まれ、裕福な生活をしています。一方、カーホウは、いつも一番であることを要求する父の圧力に悩んでいます。ハフィズは、重い脳腫瘍を

抱え入院中の母を心配させまいと、一所懸命です。

そして、マヘシュは、早くに父を亡くし、母方の叔父ガネーシュにかわいがられていますが、その叔父は自身の結婚式の時に隣人によって殺され、それによって母が寝込んでしまいます。それぞれの抱えている問題に向き合いつつ、前に進もうとする青年たちですが、ムルーとマヘシュは、お互いにひかれていきます。

そこで、大きな問題となるのが、民族と宗教です。この映画の主人公、ムルーは、父はイギリス系とマレー系の混血児、母はマレー系で、イスラム教徒です。ハフィズはマレー人のムスリム、カーホウは中国系、マヘシュはインド人でヒンズー教徒です。

© Primeworks Studios Sdn Bhd

イスラム教徒とヒンズー教徒の間の恋の行方は……。そして、タレンタイムの結果は……。反目していたカーホウとハフィズは……。すべて観てのお楽しみです。多民族国家ならではのマレーシアの問題を、若者を通して、鋭く描いた作品です。ぜひ映画館でご覧になってください。

 

 

3月下旬シアター・イメージフォーラム、4月シネマート心斎橋ほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
監督・脚本:ヤスミン・アフマド/撮影:キョン・ロウ/音楽:ピート・テオ
出演:パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショールほか
原題:Talentime|2009 |カラー |115分 | マレー語・タミル語・英語・広東語・北京語
公式サイト  www.moviola.jp/talentime


ヒッチコック/トリュフォー

アルフレッド・ヒッチコックという映画監督をご存じでしょうか。ミステリー映画の巨匠として知られている人で、数々の作品が今も多くの人に観られています。50代以上の人には強く印象に残っているでしょうが、毎週「ヒッチコック劇場」というテレビ番組がありました。いかにも外国人といった太ったおじさんが出てきて、ミステリー作品を紹介するものでした。テレビの中でのヒッチコックの声は、熊倉一雄氏で、その特徴的な声も印象が強いものでした。

さて、今回ご紹介する映画は、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手として注目されたフランスの映画監督フランソワ・トリュフォーから送られた手紙に端を発しています。1962年の春、ヒッチコックに「あなたが世界中で最も偉大な監督であると、誰もが認めることになるでしょう」という宣言入りの手紙を書き、それにヒッチコックが応じたことで実現したインタビューを本にした『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』があります。この本、実は映像制作にかかわる人たちにはバイブルのよ

%e3%83%92%e3%83%83%e3%83%81%e3%82%b3%e3%83%83%e3%82%af%ef%bc%8f%e3%83%88%e3%83%aa%e3%83%a5%e3%83%95%e3%82%a9%e3%83%bc

監督:ケント・ジョーンズ/脚本:ケント・ジョーンズ、セルジュ・トゥビアナ/原題:HITCHCOCK/TORUFFAUT/2015年/80分/ 配給:ロングライド 2016年12月10日 新宿シネマカリテほか全国順次公開

うにあつかわれている有名な本だそうです。その録音テープが発見されたことで実現したドキュメンタリー映画です。

録音テープとインタビュー時に撮影された写真をもとに、映画が構成されています。そのインタビューの内容をより深く理解するために、マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、ウェス・アンダーソン、ジェームス・グレイ、ポール・シュレイダー、オリヴィエ・アサイヤス、ピーター・ボクダノヴィッチ、アルノー・デブレシャン、リチャード・リンクレイター、そして日本からは黒沢清といった10名の映画監督がヒッチコックの映画手法について語っています。

トリュフォーの質問にていねいに答えるヒッチコックの姿勢とともに10名の監督がヒッチコックの映画手法を読み解くことは、映画ファンなら心躍るものがありました。

心に残った言葉があります。トリュフォーが「あなたはカトリック信徒ですか」という問いに対して、ヒッチコックは間髪を入れず、録音をとめるようにと言います。そうして、ヒッチコックの映画の画面が次々に出てくることで、やはりカトリック信徒なのだろうと推測できます。

この映画を見ると、ヒッチコックの作品をもう一度すべて観てみたいと感じる映画でした。


天使にショパンの歌声を

カナダのケベック州というとどんなイメージをおもちでしょうか。そして寄宿学校にはどんなイメージをおもちでしょうか。今回ご紹介する映画は、カナダのケベック州にある修道会の経営する小さな寄宿学校を舞台にしたきれいな音楽の流れる映画です。"LA PASSION D'AUGUSTINE"

この寄宿学校は、修道会が経営しています。校長のオーギュスティーヌ(セリーヌ・ボニアー)は音楽教育に力を入れ、学校内ではいつも少女たちの歌声が響き渡っています。カナダ政府が近代化を進めるために公立学校を増加させたために、この学校は存続の危機に瀕していました。修道院では、新しい総長の手によって、採算の取れない学校を閉鎖しようと考えています。この学校は閉鎖の一番のやり玉とされていました。

そんななか、オーギュスティーヌの姪アリス(ライサンド・メナード)が転校していきます。このアリスには、ピアノの天性の才能があり、期待されますが、良心に見放されたと思い込んでいるアリスは、心を固く閉ざしています。%e5%a4%a9%e4%bd%bf%ef%bc%bf%e3%83%a1%e3%82%a4%e3%83%b3

物語の展開はこの辺にして、私がこの映画をオススメする点に話を移しましょう。この映画を観た人はその音楽の美しさと大自然の美しさに目を瞠ると思うのですが、私はちょっと違った視点でこの映画を読み解きたいと思いました。

第二バチカン公会議後、教会の組織はさまザな変革がなされました。そのひとつがそれまでラテン語で行われていたミサが各国の言葉でミサを行うようになったことです。また、説教の時以外、司祭はいつも祭壇のほうに向かっていたのですが、私たち信徒の方を向くようになりました。でも、この映画で描かれているのはそんなことではありません。

それまで髪をしっかり隠し、体型もわからないほどゆったりとした修道服を着ていたシスターたちが髪を出し、一般の人たちが着るような服装に替わっていくときのシスターたちの戸惑いと苦悩が描かれている点にこんな映画がこれまであっただろうかと考えてしまったのです。

(c)2015−8212-9294-9759 QUEBEC INC. (une filiale de Lyla Films Inc.) 2017年1/14(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー

(c)2015−8212-9294-9759 QUEBEC INC. (une filiale de Lyla Films Inc.)
2017年1/14(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー

音楽を愛する人たちと、その音楽を大切に守ろうとする人たちの美しい映画ですが、ちょっと見方を変えるとこんな面もあります。この映画は、さまざまなことを考えさせてくれ、なおかつ美しい音楽に彩られた映画です。ぜひ、映画館でご覧になってみてください。

 

スタッフ
監督:レア・プール/原案・脚本:マリー・ヴィアン/共同脚本:レア・プール/撮影監督:ダニエル・ジョヒン/衣装デザイナー:ミシェル・ハメル/作曲・音楽監督:フランソワ・ドンピエール/プロデューサー:リズ・ラフォンティーヌ、フランソワ・トレンブレイ
キャスト
セリーヌ・ボニアー、ライサンド・メナード、ディアーヌ・ラヴァリー、


「映画作家 黒木和雄 非戦と自由への想い」

黒木和雄という映画監督をご存じでしょうか。10年前の2006年、4月に75歳で亡くなられた方です。私も全作品を見たわけではありませんが、歴史好きには、原田芳雄演じる坂本龍馬が話題となった「龍馬暗殺」で名を知られている監督です。それ以外にも、約16本の映画を作られています。けっしてメジャーで、華やかな映画を作った監督ではありませんが、その制作姿勢には一本の筋が通っていた監督でもあります。
その黒木和雄監督、没後10年ということで、黒木和雄監督作品の助監督をしていた後藤幸一氏がドキュメンタリー映画「映画作家 黒木和雄 非戦と自由への想い」という映画を作られました。
この映画の特徴は、なんといっても「自由」と「非戦」です。黒木監督の生前のインタビューとともに周辺の黒木氏と親交のあった人たちのインタビュー集としてまとめられています。
黒木和雄という監督が何を思い、何を見つめ、映画作品を作っていったのかが、如実に出ている映画でもあります。
戦争を体験している世代が数少なくなっている現代で、世の中がどんどんきな臭くなる中、宮崎県えびの市の中学で同級だった友人のお二人は、どんどん昔のあの時代に似通ってきているといい、広島で被爆したお二人の女性は、実際に体験

14291636_1594302957536621_5168046287753358455_n

監督:後藤幸一/製作:鈴木ワタル/プロデューサー:岩村修/配給:パル企画/上映時間:91分 2016年11月19日よりユーロスペースほかで上映

した人と話だけで体験した人には非常に大きな温度差があると語りかけています。
でも、本当のそうでしょうか。私たち戦争を知らない世代だからこそ、戦争を体験した人たちの声を聞き、戦争体験はどんなものだったのかを聞いていかなければその声は、体験者が亡くなってしまえば終わりということにならないでしょうか。この映画を見ていてそんなふうに考えました。
そんな中で、作家澤地久枝氏は、同じ年生まれで、同じ時期に満州に渡り、同じ時代をみてきた一人として、黒木和男氏の映画作品を読み解きます。その読み解く声には、反戦の思いが語られていました。
今、戦時下に近い時代になっていると多くの人が訴えかけている状況の中、本当の自由とは何かを真剣に考えさせられる映画です。


ふたりの桃源郷

監督:佐々木聰/撮影:山本 透、山本 宏幸、山本 健二、善甫 義隆/取材:佐々木 聰、藤田史博、高橋 裕/制作著作:山口放送 ナレーション:吉岡秀隆

監督:佐々木聰/撮影:山本 透、山本 宏幸、山本 健二、善甫 義隆/取材:佐々木 聰、藤田史博、高橋 裕/制作著作:山口放送
ナレーション:吉岡秀隆

人は誰しも人生の終焉を迎えます。子どもたちは、その終焉に向かう両親にどのような手助けができるのか。そんなことを考えさせられる映画に出会いました。ドキュメンタリー映画「ふたりの桃源郷」です。

この映画は、山口放送開局60周年を記念して公開された映画ですが、そもそもはNNNドキュメンタリーとして放送されたものです。主人公は田中寅夫さんとフサコさん御夫妻です。昭和13年に結婚し、終戦後、フサコさんの故郷に近い、山口県の山を買い、山を切りひらき、自給自足に近い状態で、三人の娘を育てていましたが、娘たちの将来を考え、寅夫さん47歳の時に大阪に転居し、タクシードライバーとして生計を立てていました。娘たちも巣立ち、寅夫さんが還暦をすぎてから、18年ぶりに山で暮らすことを決意します。山の暮らしはけっして楽ではありません。電気もなければ、水道もない生活です。でも、このご夫婦はすごく幸せそうでした。本当の幸せは何だろうとふっと考えさせられました。

畑で取れた野菜を食の中心とし、わき水で沸かしたお風呂に入り、窯で炊くごはんを食べる。人間の生活の原点がそこにはありました。でも、そんな幸せそうなご夫婦にも老いが訪れます。かけがいのない二人の時間が山の麓の老人ホームに移ります。そこには、電気もあれば水道もあり、とても快適と思えるような生活なのですが、二人は、山のことが頭から離れないのです。

そして、二人を遠くから見守る三人の娘たちの姿も象徴的です。月に一度、娘たちは、連れ合いや子どもを連れて山にやって来て、ご夫婦を支えます。本当に優しい家族愛に満ちた時間です。

自分たちの本音が違うところにあっても、父と母の意向を最大限尊重し、本当に両親を大切に思っている姿には心打たれるものがあります。

夫婦のあり方、家族のあり方をじっくり考えさせられる心あたたまるドキュメンタリー映画です。まだ全国のあちらこちらで上映しています。自主上映も受け付けています。ぜひひとりでも多くの方に見ていただきたい映画です。

 

公式ホームページ:http://www.kry.co.jp/movie/tougenkyou/index.html