「father カンボジアへ幸せを届けた ゴッちゃん神父の物語」対談


吉祥寺教会の後藤文雄神父様をご存じでしょうか。現在ドキュメンタリー映画「father カンボジアへ幸せを届けた ゴッちゃん神父の物語」で話題になっている神父様です。この映画公開を記念して、AMORでは、編集委員に参加していただいている清瀬教会の伊藤淳神父様との対談を実現しました。神父様同士の対談は、映画の裏側を少しのぞくことができると思います。映画を観てからお読みになっても決して飽きさせることのない面白い対談になっています。4回にわたって、連載する形になりますが、その後、実際の対談現場の映像も流させていただく予定です。ぜひお楽しみください。(編集部)

カンボジアの子供たちの支援を始めるまで

伊藤 一番最初に後藤神父様を存じ上げるようになったのは、私がまだカトリックの女子校で教員をやっていた時のことで、神父様は毎月母親たちのための講話をしに来ておられました。その頃から「カンボジアの神父様」というのがキャッチフレーズのようになっていました。カンボジアに関わる活動自体を始められたのは1981年ですね。映画の中で私がすごく感銘を受けたというか、そうかと思ったのは、大和の定住促進センターの女性が神父様のところに援助のお願いに来て、神父様は吉祥寺という大きい教会で……。

後藤 信者さんにお願いしても、誰も応じてくれませんでした。

伊藤 私も、まったく同じ経験ではないですけれども、神父をやっていますと、そういうことはありますよね。信者さんにお願いして、いいことだと思うのに全然反応がないということは。その時、神父様の横にいた支援者の女性は恨めしげに……。

後藤 教会にはこんなにたくさん部屋があるのに、何で引き取れないのかというようなことを言われました。信者の皆さんにはお願いはするけれども、私自身がやるという発想はまったくありませんでした。信者にお願いしようと思ったのですが、誰も応えてくれない。そして、「この教会、部屋がたくさんありますね」と言われ、そうかと思いました。皆さんにお願いするよりも、まず自分でやらなければいけないのではないかと気づいて、始まったんです。

伊藤 映画の中でその話をなさっているときに、その女性がじっと見ていて、教会のお部屋のこととかを言い出したときに、神父さんが心底憤慨したとおっしゃっているのを聞いて、後藤神父でもそんな気持ちになることがあるのかと思ったのですが、それは本当だったのですか。

後藤 それは本当で、その時は自分でやるつもりはありませんでした。

伊藤 私が、さすがは後藤神父様と感ずるのは、自分もこの女性と同じことを信者にしていたんだと気づかれたのですよね。

後藤 そうなんですよね。それがことの始まりでした。それが最後にこういう形まで辿り着くとは思っていませんでしたけれども。

伊藤 私なんかですと、憤慨して、腹立って、言葉に出すかどうかは別にしても、「いい加減にしてください」とか、「今日はこれでおしまい」ということになりそうなところを、よく続けられましたね。

後藤 それは、私自身戦災に遭って、一晩で家族から何から何までなくしてしまい、住む場所も何もない、ただ人の情けに頼る以外に生きる道がなかったものですから、そういう経験が中に響いていたと思います。

でも僕はカンボジアがどこにあるのか知らなかったんです。あの辺だろうというのは分かったんですけれども、タイとベトナムに挟まれた小さな国というのも知りません。歴史も全然知りませんでした。そういうのが突然現れてきたわけです。ですから彼らを受け入れるというのも、全部分かった上で受け入れたのではなく、全然分からないままに、来てしまった彼らに居場所がないというのは気の毒だということだけでした。

伊藤 ここは神言会の修道院でもあるわけですよね。部屋が空いているということは、物理的にはその子供たちを受け入れ可能だったわけですね。修道会の方はどうだったのですか。

伊藤 特には問題にならなかったんですね。

後藤 ええ、全然。問題にはならなかったんですが、あいつが勝手にやっているんだから、というわけで、1981年から子供たちを預かっている94年までの間に、1回だけある管区長が「お前大変なことをやって、えらいな」とポケットマネーをくれましたが、あとは一切援助はなかったです。

伊藤 では、良くも悪しくも自由にどうぞということだったわけですね。

後藤 そうそう。あの頃カンボジアに行くと言ったら、まだポル・ポトが全国土の3分の1もしくは、半分ぐらい支配していた時ですから、勝手に行くんだったら、勝手に死んでも勝手にしろと言われました。

伊藤 そこまで言いますか。でも、広い意味では会の理解はあったということですか。

後藤 あったんでしょうね。やめろとか、出て行けとは言われませんでしたからね。

(第2話に続く)

4月21日(土)より東京・吉祥寺COCOMARU THEATERにて絶賛上映中


「father カンボジアへ幸せを届けた ゴッちゃん神父の物語」対談” への1件のフィードバック

  1. ごっちゃん神父さま。
    すごい決断力だと思いました。
    自分の生い立ちや戦争にたいする思いなど
    言い知れぬ不条理にたいする気持ちが
    突き動かされたのでしょう。
    映画からすごく伝わってきました。

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