アート&バイブル 76:コレッジョの聖母子 二つの作品


稲川保明(カトリック東京教区司祭)

コレッジョ(1489~1534)については、アート&バイブル48「聖母の礼拝」49「スープ皿の聖母」で紹介しました。今回は、彼の初期と後期の二つの聖母子画を鑑賞します。

 

『聖母子と聖ヨハネ』

一つは1516年の作品、『聖母子と聖ヨハネ』です。

【鑑賞のポイント】

『聖母子と聖ヨハネ』(1516年 キャンバス油彩 ミラノ スフォルツァ城)

(1)幼子イエスはマリアのひざではなく、椅子の肘掛にすわっているようです。衣服のバランスがあまりはっきりせず、幼子イエスの表情もややぼんやりとした印象です。マリアの顔は優雅ですが、コレッジョが描いた後期の聖母子図のマリアとはモデルが違うのではないかと思われるような面長です。窓から見える外の景色といい、壁の装飾の配置なども含め、レオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザの影響ではないかと思われるところがあります。

(2)スフマート画法という方法で、輪郭線を描かず、ぼやかすように描いているのですが、まだそれを完全にはマスターしていないように思えます。

(3)聖母マリア、幼子イエス、幼子洗礼者ヨハネの三人の視線が交わっておらず、幼子イエスのまなざしが何を見ているのか、よくわかりません。聖母の左手の指が奇妙に大きく、また何をしようとしているのかも判然としません。聖母子を描きたいという情熱からではなく、ダ・ヴィンチの画法を習得するために苦戦・苦闘しているような作品に思えます。

 

『バスケットの聖母子』

もう一つは『バスケットの聖母子』。こちらは1524年に描かれたもので、33×25cmというとても小さなサイズの作品です。持ち運びを考えていることは間違いありません。キャンバスではなく、銅版画であることからも、コレッジョは自分の妻をモデルとして描いたこの作品を、今でいえば写真のように持ち歩いていたのかもしれません。

【鑑賞のポイント】

『バスケットの聖母子』(1524年 油彩銅板画 ロンドン ナショナルギャラリー)

(1)この聖母子はどこにいるのでしょうか。壊れた神殿の階段のようなところに座っているように見えます。幼子の両手は聖母の手とつながっており、その右手を少し上にある花に伸ばそうとしているのでしょう。おむつをかえようとしていたときに、急に幼子が何かに気づいて動き出したかのようにも見えます。

(2)マリアはやんちゃな幼子の動きにやや苦笑いしているようで、なんともいつくしみのこもった表情です。その顔は『聖母の礼拝』と同じく、丸みをおびており、特に丸い額が特徴的です。このマリアのモデルは間違いなくコレッジョの妻でした。

(3)ラファエロの聖母子の作品と比べても、コレッジョの作品の素晴らしさは劣るものではありません。その優美さにおいてはラファエロが、その魂の深さにおいてはコレッジョの技量が優れており、二人の聖母子は並び称されるべきものであると思います。

 


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