ニューロック木綿子(漫画)・中濱敬司(監修)『そのとき風がふいた―ド・ロ神父となかまたちの冒険』


2018年は明治維新から150年の節目にあたり、AMORでも「明治とキリスト教〈その1〉」という特集を組みました。その一つに「マルコ・マリ・ド・ロ神父を描いた本」という記事がありますが、そのド・ロ神父が来日したのも今から150年前のことです。「1人の神父のことを6人もの作家の方が評伝や小説、マンガにしていることは珍しい」とのことですが、その後さらに『そのとき風がふいた―ド・ロ神父となかまたちの冒険』(漫画:ニューロック木綿子、監修:中濱敬司、オリエンス宗教研究所刊)という本が出版されたので、ご紹介したいと思います。ここではド・ロ神父の詳しい説明はしませんが、印刷・建築・土木・農業・医療など、幅広い分野の知識をもって活躍した人で、この本が発売された6月7日は、ド・ロ神父の来日150年記念日だそうです。

この本は、カトリック系の子ども向け週刊誌「こじか」(オリエンス宗教研究所刊)で連載されていた漫画を一冊にまとめたもので、ド・ロ神父が来日してから帰天するまで(1868~1914年)の話が中心となっています。シンプルな絵柄によって、信徒発見からの歩み、プティジャン司教やド・ロ神父をはじめとした宣教師の精力的な働き、ともに働いた人々の様子、当時の生活などが非常にわかりやすく描かれています。無駄な背景は描かれずに、登場人物の活躍だけが描かれるのも漫画ならではのことで、どんどん惹きこまれていきます。トリビア的な注釈もついていて、大人でもいろいろと勉強になります。

『そのとき風がふいた―ド・ロ神父となかまたちの冒険』(漫画:ニューロック木綿子、監修:中濱敬司、オリエンス宗教研究所、2018年)

一方で、くすりと笑えるようなコミカルな部分もたくさんあり、特にメタ発言があるのが面白いです。メタ発言とは、本来作者や読者しか知らないことを、作中の登場人物が発言することを指します。ニューロック木綿子さんのデフォルメ調な絵柄と相まって、この漫画のユニークなところだと思います。例えば、本作の主人公であるド・ロ神父は第7話で初めて登場するのですが、第1話から登場していたプティジャン司教は自分が主人公だと思っていたため、ショックを受けます。第18話や第20話でもまだそのことを引きずっていたりして、実際にそんな会話やシーンはなかったとわかっていても、何となく登場人物に親近感がわきます。

また、この漫画には、2018年6月30日に世界遺産への登録が決まった「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の資産がいくつか登場しています。信徒発見の場所である「大浦天主堂」、ド・ロ神父が派遣され、今もそこに眠っている「外海の出津集落」、そして「頭ヶ島の集落」には鉄川与助の建てた頭ヶ島教会があります。彼はド・ロ神父に教会堂建築の腕を見込まれ、ともに長崎大司教館を建てた人物です。世界遺産は禁教時代のものが中心で、信徒発見までの資産で構成されていますが、さらにその後の歩みにも目を向けてみてはいかがでしょうか。

高原夏希(AMOR編集部)

 


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