日本における聖母マリアの出現地として、カトリック信者の間で巡礼地として名高い島根県の津和野町。人口7,000弱のこの小さな町で昨年12月、1人のカトリックのシスター、マリア・マグダレナ・レ・ティー・ミーリンさんが無料の鍼灸院をオープンした。シスターの施術によって、疲れた人々、痛みを抱える人々が心身ともに癒されて帰っていく。片道1時間半以上かけて通う常連客もいるという当院の人気の秘密を探る。
――シスター・ミーリン、こんにちは。ベトナムから来日してシスターになられたと伺ったのですが、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の資格はいつ取られたのですか?
日本に来てから2年間、日本語学校で学び、初誓願(シスターになる誓い)を立てた後、湘南医療福祉専門学校で資格を取得しました。
もともと鍼灸師になろうと思っていたわけではなく、「孤児や身寄りがないお年寄りのお世話をして、孤独な人の友になりたい」と考えていました。20歳のとき、その思いを(ベトナムの)地元の教会の主任神父様にご相談したところ、神父様は「シスターになるのがよいかもしれませんね」とアドバイスしてくれ、藤沢(神奈川県)に本部がある邦人修道会、聖心の布教姉妹会を紹介してくださいました。
――日本にはシスターになるために来られたとのことですが、そこから鍼灸・指圧の道を志すきっかけはあったのでしょうか?
来日して日本語学校で学んでいる間、修道院でお年寄りのシスター方の肩を揉んだりと、いろいろなサポートをしていました。先輩のシスターが、私には人をケアする道が向いているのではないかと見出してくれ、総長が専門学校を見つけてきて下さいました。私の伯父は漢方医だったので、昔から東洋医学に慣れ親しんでいたこともあり、私自身も「鍼灸や指圧を通して、たくさんの人を助けられるのはよいかもしれない」と考え学校に入学したのです。
資格を取った後は、一緒に暮らしているシスターや日本に働きに来ているベトナム人の若者たちに無料で施術しました。彼らは日本語がまだ話せなくて、うまく自分の体の不調を医師に伝えることができなかったので、ベトナム語でカウンセリングしました。日常のたわいもない相談もしてくれて、人々をケアする喜びを感じました。
私の修道会の本部は日本ですが、ベトナム、インドネシア、ベナンに拠点があるので、3か月ほどベナンで活動したこともあります。初めてのアフリカでした。そこで活動している神父様やシスター方に施術して差し上げました。皆、体の調子が良くなって喜んで下さいました。本当は現地の方々にも施術して差し上げたかったのですが、外国人に慣れておらず、私の白い肌を見て子どもたちは「おばけだ」と泣き始めてしまうくらいでした。それで近づくことさえかなわなかったのですが、次にベナンを訪れたときには、体の不調を抱える方々に奉仕できたらいいなと思います。
――山あり谷あり、いろいろな体験を経て、2022年12月、津和野町で治療院をオープンする運びとなったわけですね。「聖心(みこころ)治療院」のコンセプトについて教えてください。
イエスさまの聖心に倣って、人々の健康を助ける場です。島根県に正式に届け出を提出した施術所ですが、治療費はいただいておりません。カトリック津和野教会の信徒会館の2階で開いています。
――どんな方が来られることが多いですか?
70代から80代の方が多いです。遠くは山口県から1時間半以上の時間をかけて、車でおいでくださる方もいます。教会の隣に幼花園というカトリックの保育所があるのですが、「幼花園に小さい頃通っていました」、「幼花園で昔働いていました」という方も多く来られます。すでに津和野を離れてしまった方で、聖心治療院をきっかけに地元に戻って来られて「数十年ぶりに教会を訪れた」というお話も聞きました。来院している方の3分の1くらいは、津和野教会の信者さんですが、3分の2は地元の方たちです。だから、教会に通っているかどうかは関係なく、疲れた方、重荷を負っている方には、皆さんにいらしてほしいです。
――最後に、これから治療院を訪れる方々にメッセージをお願いいたします。
8月は修道会の集まりで忙しく、しばらくお休みしますが、9月にはまた治療院を開きます。施術を希望される方は、カトリック津和野教会に電話で予約してください。午前中は9時から11時、午後は14時から17時の間にいらしてくださると助かります。皆さんが心と体の健やかさを取り戻すことのできる場として、あたたかい癒しとなるような施術を目指しています。遠慮なくお電話くださると嬉しいです。お待ちしております!
(聞き手:AMOR編集部)