ベトナム戦争3部作


中村恵里香(ライター)

今の60代後半から上の世代の人々は、青春時代に60年安保、70年安保を生きてきた人々ですが、その人たちの青春時代の印象的なものとしてベトナム戦争があると思います。そのベトナム戦争の事後について長い年月をかけて追っているドキュメンタリー映画があります。

1960年代、ベトナム戦争時にゲリラが隠れるジャングルによって苦戦していたアメリカ軍は、そのジャングルをなくすために大量の枯れ葉剤を散布しました。当時のアメリカ軍の発表では、「人体に影響はない」としていました。監督の坂田雅子氏は、フォト・ジャーナリストの夫グレッグ・デイビス氏を肝臓ガンで亡くし、その原因がベトナム戦争に従軍し、枯れ葉剤を浴びたことによるものではないかと考え、映画製作を始めます。そして最初に発表した作品が『花はどこへいった』です。

戦後30年以上を経た現在でも未だ多くのベトナム人を苦しめている枯葉剤の実態に迫ると同時に、被害者とその家族の深い愛情や平和への想いを描き出していいます。

そして、第2弾として発表した作品が『沈黙の春を生きて』です。戦後35年がたってもベトナム人はもちろん、作戦に従事したアメリカ兵やその子どもにまで被害は広がっていました。この作品は、手足に障害をもって生まれた帰還兵の娘ヘザーが初めてベトナムを訪れる姿を中心に、化学物質の危険性を描きだしていきます。

第3弾が『失われた時の中で』です。ベトナム戦争が終わって50年、未だに続く被害の状況を、ほとんどボランティアで枯れ葉剤の被害者と向き合っているフォン医師の活動やインタビューによって戦争被害の実態をつぶさに捉えています。

この3作品に共通するものは、戦争を体験していない世代が、戦争に対する思いをまるで祈るように描き出しているところです。戦争は、戦っている時だけが戦争ではないということをまざまざと見せつけられます。戦っている時には、さまざまなメディアが報道し、私たちに恐ろしさを見せますが、その後のことはほとんど目にすることはありません。でも、本当の戦争は、戦いが終わった後にも続くのだということを教えてくれます。戦争体験者がどんどん鬼籍に入っていく現在、体験できなかったからこそ見える世界があります。戦争体験のない私たちでも感じるものがあるはずです。世界中がきな臭い今だからこそ、ベトナム戦争の実態が描かれているこの3作品によって訴えるものに意味があると思います。

 

『花はどこへいった』

スタッフ・キャスト

監督:坂田雅子/製作:坂田雅子、ビル・メガロス、山上徹二郎/撮影:坂田雅子

出演:グレッグ・デイビス、フィリップ・ジョーンズ=グリフィス、グエン・ティ・ゴック・フォン

2007年製作/71分/日本/配給:シグロ

 

『沈黙の春を生きて』

監督:坂田雅子/企画:坂田雅子/製作:山上徹二郎/編集:ジャン・ユンカーマン/撮影:ビル・メガロス、山田武典、坂田雅子、ロバート・シーモン/ナレーション:加藤登紀子

2011年製作/87分/日本/配給:シグロ

 

『失われた時の中で』

監督・撮影:坂⽥雅⼦/写真提供:グレッグ・デイビス、フィリップ・ジョンズ・グリフィス、ジョエル・サケット/コーディネーター・仏語翻訳:⾶幡祐規/撮影:ディディエ・フォンタン、シルビー・ジャックマン、ナガヌマ・ヒカリ/サウンドデザイン:⼩川武/構成・編集:⼤重裕⼆/⾳楽:難波正司/協⼒:ジャン・ユンカーマン、VAVA、ベトナム枯葉剤被害者の会/資料映像:⽶国⽴公⽂書館

2022 年/⽇本/60 分/⽇本語・英語・ベトナム語・フランス語/ドキュメンタリー/配給・宣伝:リガード

©2022 Masako Sakata

公式サイト: masakosakata.com/longtimepassing

 


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