特集100 枢機卿(カーディナル)


不思議な尊さに満ちた職位

「枢機卿」と聞いて、皆さんはどんなことを連想しますか。ある方々は、アレクサンドル・デュマの『三銃士』という小説にも登場するリシュリュー枢機卿を連想するのではないでしょうか。リシュリューについては今回の特集の中でその生涯と事跡が紹介されています。17世紀フランスで宰相の務めを果たした高位聖職者という意味で「枢機卿」という言葉が飛び込んでくるのも事実です。

また、ある方々は、コンクラーベと呼ばれ、世界的にも大ニュースになる教皇選挙を連想することでしょう。この特集でも『教皇選挙』という映画が紹介されていますが、この選挙は、最も枢機卿たちが世界の脚光を浴びる舞台であることは確かです。カトリック教会では、教皇の顧問、相談役というはっきりとした役割がある枢機卿は、一人の教皇が逝去したり辞任したりしたあとの選挙で、教皇に選ばれる権利と教皇を選ぶ権利を共に持つという意味で、世界の歴史に深く関与していくことになるからです。

一つの国・地域のカトリック教会で、教皇の顧問という役割を受ける枢機卿はいることもあれば、いないこともあります。一つの国・地域の教会組織の中で枢機卿は必要な職位というわけではなく、基本は一つの教区の長となる司教が要で、いくつかの教区を統括する管区大司教区の長である大司教が、いわばその国・地域の教会のトップです。

そうした大司教の中から、ある人々が教皇に任命されて教皇顧問、すなわち枢機卿となり、教皇庁の主要機関(省)の長官や委員を務めるという慣例になっています。一つの国・地域の教会組織の最高機関は司教協議会で、枢機卿はその上の存在になるわけでもありません。それなのに、教皇の最高顧問たちとして、全世界、全教会においてとても重要な存在という意味で、まさしく不思議な、大切な職位ということになるのでしょう。

そんな枢機卿が今、日本には二人います。大阪高松大司教である前田万葉枢機卿(2018年5月20日任命)、そして東京大司教である菊地功枢機卿(2024年10月6日任命)です。それぞれ、1960年に初めて日本人として枢機卿に任命された土井辰雄枢機卿から数えて6人目、7人目の方々です。お二人とも枢機卿に任命されると、一般のニュースにも流れ、一般紙の人物紹介の記事に取り上げられるほど注目を浴びます。その意味で、枢機卿は、信者が圧倒的に少ない日本のような社会でも教会の存在を輝かせる、不思議な存在です。その尊い職位の実情について、今回は前田枢機卿へのインタビュー、菊地枢機卿が語られたお話などを含めています(こちらは後日、記事の追加を予定しています)。また、四人の枢機卿との出会いを経験されている東京教区の司祭の方からも思い出を寄せていただいています。

ちなみに「枢機卿」とは、カルドー(蝶番)に由来するカルディナリスがラテン語の原語ですが、これを「枢要」「枢軸」に通じる「枢機」で受け、しかも貴族的な職位を連想させる「卿」と組み合わせたところに、歴史と現在の中での、その役割を見事に表現することのできる日本語になっているのではないでしょうか。「枢機卿」という職位にあらためて注目するなかで、キリスト教と世界、教会と日本ということについて、なにか考えを広げることができたらと思います。

 

日本の枢機卿の年表

リシュリュー枢機卿

『教皇選挙』

私が出会った枢機卿様たち

インタビュー:前田万葉 枢機卿に聞く(2025年2月17日追加)

 


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