山田真人
前回の記事より、Doing Charity by Doing Businessというテーマで、「信仰を違った角度で見てみる」ということを意識して記事を連載させて頂いております。
今回は、前回の最後に触れたシノドスの意味する「共存・対話」というキーワードを、教会、学校、NPOという私が仕事で関わらせて頂いている要素を通して、お伝えできればと思います。それによって今回も、信仰の違った角度、実り方を考えていければと思います。
2022年10月、私は所属しているバチカンの信徒、家庭、いのちの部署の活動の一貫で、リスボンで開催されるワールドユースデイの準備会に参加していました。そこで特に衝撃的だったのは、その国自体が醸し出すヨーロッパならではのカトリックの強さです。ポルトガルは、15歳以上の約81%がカトリックとなっています(“2020 Report on International Religious Freedom: Portugal” を参考にしています)。その首都リスボンの市長に挨拶に行った際、彼はリスボンはもちろん、国全体でワールドユースデイを盛り上げていく意向を示していました。
しかし、私はその姿に正直、素直に感動できませんでした。なぜなら日本を相対化した際に、大きな違いを感じたからです。リスボンには空港や路上のあちこちにワールドユースデイ開催についての垂れ幕があり、インフラの協力が整えられ、旅行会社のアテンドなども予定されていました。おそらく日本で同じく大手旅行代理店や、鉄道会社に世界中からカトリック信徒が集まることを直接的に説明しても、協力を得るのは困難でしょう。カトリック信徒とそれがもたらすビジネスにおける市場規模を、日本で説明し、理解してもらうには、現時点では困難だからです。
この衝撃を通して私は、日本におけるカトリックの浸透に対して消極的になったのではありませんでした。その時強く感じたのは、日本には日本独自の方法論があるように思えたことです。そして、日本独自のカトリック精神の実り方はどんなものがあるか、考えるきっかけにもなりました。その一つが、カトリック学校の広まりです。日本のカトリックの人口は、全人口の0.3%で、約44万人です。一方でカトリック学校の数は、幼稚園から高校までで835校あります。人口対学校数で考えると、カトリック教育の影響力はそれなりに大きいと言えると思います(カトリック中央評議会のカトリック教会現勢を参照)。
それに付随して、社会福祉施設や医療機関などは、712あります。特に女子校は設立当時の社会課題と結びついており、例えば聖心技術専門学校は女性の教育と職業訓練を目的の一つとして、日本の女性教育の先駆にもなったとも言えます。このように、日本のカトリックは洗礼などの直接的な広がりよりも、教育と社会課題に結びついて展開したと言えるかもしれません。
このように考えると、日本で信仰を持って具体的に生きていくための仕組み作りの一つとしては、教育現場や職場で、社会課題を意識して生活し、それを福音と照らし合わせて見ようとする力が必要だと思います。例えば、その一つの取り組みとして、サレジオ学院のカトリック研究会が挙げられます。生徒がフェアトレードチョコレートについて調べ、それを仕入れて学校で販売することを通して、探究学習をしたいと考えても、卸価格の交渉や収益事業目的の現金の扱いなどを考慮すると、ハードルが高く断念したこともありました。
一方で、NPOが寄付収入の一貫として実施している商品の販売で、団体スタッフが生徒と協働して販売プロセスを決めていく過程があれば、状況は緩和されます。現在もサレジオ学院は、1食15円で1人の子どもの給食費になるというメッセージのもと、マラウイの給食支援を、NPO法人聖母とともに実施して下さっており、現在その活動はこちらのように、他の学校にも伝播しています。(https://www.charity-coffee.jp/school)
今回の記事では、学校教育という点を通して、日本が持っているカトリックの文脈について考えてみました。他国と比べると、日本で信仰を保っていくのはマイノリティで辛いことのように思えてしまいます。しかし、社会的、文化的差異として考え、積極的に生かす方法を考えていくことは、困難ですが価値のあることだと思います。1食15円で救える命があるという具体的な課題を持ったNPOと、それに教育的な付加価値を載せる学校、そしてその価値観を支える教会という構図を、これからも考えながら活動ができたらと思います。
山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁、信徒、家庭、いのちの部署のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。