ジョージアワイン


皆さんはワイン発祥の地はどこがご存知でしょうか?

ワインの産地というとボルドーやシャンパンで有名なフランス、パスタやピッツァに合わせたいイタリア、カヴァやテンプラニーリョなど安くて美味しいワインを生産するスペイン、前回紹介したドイツといった西ヨーロッパの国々がはじめに連想されます。また、「ニューワールド」と呼ばれるアメリカやオーストラリアも美味しいワインを生産しますし、山梨や長野など国産ワインのことを思い出す人もいるかもしれません。

ですが、ワイン発祥の地は上記のどこでもなく、今月AMORで特集するジョージアなのです! ワイン発祥の地に関しては、なにせ今から8000年も昔のことなので諸説あるのですが、発見されている 中で最も古いワイン生産の証拠はジョージアで見つかっているため、ギネスブックなど多くのメディアはジョージアをワイン発祥の地と見なしています。一説によると、ジョージア語でワインを意味する「グヴィノ」ღვინო/ghvinoという言葉がラテン語の「ヴィヌム」(Vinum)となり、イタリア語の「ヴィーノ」(Vino)や英語の「ワイン」(Wine)となったとも言われています。つまり、ジョージアは生産の面だけでなく、語源的にもワイン発祥の地といえそうです。

クヴェヴリと呼ばれる伝統的な容器で生産されるジョージアワインは、8000年前から続く技法を継承しており、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。そこで今回の「酒は皆さんとともに」は、日本でも飲まれる機会が増えてきているジョージアワインの歴史を簡単に紹介したいと思います。

ジョージアとワインの関係は古く密接です。考古学的な発見によりジョージアがワイン発祥の地とされていることはすでに述べましたが、実は聖書の物語とも関係があるそうです。

創世期には有名な「ノアの洪水」のエピソードが記されています。それによると、悪いことばかりしている人を見た神様は、人間を創造したことを後悔し、ノアの家族を除いた人々を一掃するために大洪水をおこしました。「箱舟」に乗って大洪水を生き延びたノアは、「農夫となり、ぶどう畑を作った」920)、と言われています。

後世の伝承によると、「ノアの箱舟」が漂着したのは、今日はトルコ領となっているアララト山だそうです。トルコというとジョージアの南西の国です。つまり、伝承を綜合してみると、「ジョージアのワイン生産はノアがはじめた」とも言えそうです。そうであるならば、「天幕の中で裸になって」921)しまうほどノアが酔っ払うまで飲んだワインは、ジョージアワインという事なります。ジョージアワインは、ノアが酔っ払うまで飲みたくなるほど美味しいという事でしょうか!?

旧約聖書に関連する逸話に続き、今度はキリスト教とジョージアの関係を示す物語を紹介したいと思います。

4世紀初頭にジョージアをキリスト教化させた聖ニノは、ブドウの木を自らの髪で結って十字架にしたと伝えられています。ゆえにジョージア正教会では「ブドウ十字」と呼ばれる独自の十字架を使用します。ちなみに、聖ニノの「ブドウ十字」は首都トビリシのシオニ大聖堂に保管されているそうです。ジョージアのキリスト教史は特集でも取り上げられるので、興味がある方は、ぜひそちらの記事も参照してください。

ところでジョージアワインには上記のような非常に長い歴史があるのに、どうしてあまり流通していないのでしょうか。様々な理由が挙げられるでしょうが、その一因としてソ連時代のブドウ統制が頻繁に指摘されます。

ジョージアのワイン造りで利用されるブドウは、ピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニョンといった西ヨーロッパで有名な種類ではなく、ルカツィテリやゼルシャヴィといったジョージアの固有種です。その数は530種にも及ぶというから驚きです。ですが、これら多様なジョージア固有種は効率が悪いと考えたソ連は、大量生産のためにブドウの種類を18種に制限してしまいます。そのせいでジョージアのワイン産業は大打撃を受け、ワイン生産の伝統は断絶の危機に瀕しました。ですが、20世紀末にソ連が崩壊したため古いブドウを使った伝統的なワイン生産は再開され、その独自の魅力に引き寄せられたワイン好きを通じてジョージアワインは復興を始めました。

そんな辛酸を味わったジョージアワインの歴史の中で、最も古い伝統を受け継いでいるのがキンズマラウリ社です。外国勢力の攻撃を受けて衰退したジョージア王国は、15世紀につの王国に分裂してしまいます。三ヶ国の内、東部に誕生したカヘティ王国の絶頂期を築いたレヴァン1503〜1574王が1533年に設立したワイン貯蔵庫に遡ることのできるキンズマラウリ社は、ジョージアの固有種を用いた独自のワインを多く生産しています。

この記事を書きながら頂いているキンズマラウリ社のサペラヴィは、カヘティ地方のブドウを使用した赤ワインで、程よい重さと甘さが食前・食中・食後のタイミングを選ばずに楽しませてくれます。濃厚なグレイビーソースを使用した料理だけでなく、有名なジョージア料理シュクメルリにも合いそうです。

ジョージアワインの魅力は一回では紹介しきれません。クヴェヴリを用いた伝統的な製法、独自のブドウや個性あふれる生産地、スプラという宴会、お酒にあうジョージア料理……。近年はジョージアワインに関する書籍も日本語で増えてきていますし、ジョージアワイン専門のオンラインショップもございます。今回の記事で興味を持たれた方が、奥深いジョージアワインの世界に触れていただければ幸いです。ガウマルジョス乾杯

石川雄一(教会史家)


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