読書の秋に実りもたらす一冊を


奥村一郎『祈り』
(女子パウロ会、1974年初版、2018年改訂)

 

聖イグナチオ教会案内所

私は、四ツ谷駅から徒歩二分の所にあるカトリック麹町聖イグナチオ教会内の聖イグナチオ教会案内所で働いています。主に、聖書をはじめとするキリスト教関連書籍を扱う書院ですが、十字架やロザリオ(祈りの道具)といった聖品、カード類の頒布もしています。小さなお店ですが、シスターと共に温かい雰囲気で来てくれた人々を迎え入れるよう心がけています。教会内にあるお店なので、お客様は信徒の方や神父様が多いですが、教会隣の上智大学の学生さんや、日曜日にふらっと立ち寄ってみたという方など、たくさんの方々がお店を訪ねてくださっています。

書院で働く立場として、出会う一人一人の方の必要にできるだけ丁寧に応えたいと思っています。今のおすすめの本は何ですか、病床にいる親族に渡すにはどのような本がよいですか、キリスト教のことを知りたいのですが……オンラインで簡単に調べ物や買い物ができるこの時代に、わざわざ教会内のお店に足を運んでくださる方がいて、その方と直接顔と顔を合わせてやり取りができるのが、私のお仕事のやりがいの一つです。また、何かを求めていらした方に「それはないです」で終えるのではなく、「それはないけど、これならあります」と案内し、たとえ答えが見つからなくても一緒に寄り添い考えてみる、といった姿勢で目の前の相手と向き合うようにしています。そのために、私自身も書院の本を知る必要があります。もともと読書にあまり親しみがなかった私が、すべての書籍を網羅して読むのは難しいですが、書院にあるたくさんの善い本を少しずつ手にとっています。

 

私のおすすめの一冊

書院では、聖イグナチオに関連する書籍や、マザー・テレサ関連書籍、将棋棋士・加藤一二三さんの著作、『置かれた場所で咲きなさい』がベストセラーになった渡辺和子シスターの著作、キリシタン関連書籍、教皇フランシスコの著作、神父様のエッセイ集や詩集、遠藤周作の小説……あらゆるジャンルの本が人気です。

このようにたくさんの本の中から今回私がおすすめするのは、奥村一郎神父による『祈り』(1974年初版、2018年改訂)です。聖パウロ女子修道会(私は女子パウロ会のシスター方と働いています)による出版であり、ロングセラーの文庫版です。禅仏教からカトリックに改宗し司祭になった著者の、豊かな話題、いろいろな切り口から「祈り」について書かれています。私にとっては、聖イグナチオ教会案内所で出会ったシスターからはじめていただいた本であり、大学の卒業論文を書く際にも傍らに置いて開いていた思い入れのある一冊です。

「祈り」とは何なのか、「祈る」とはどういうことなのか……それらを紐解く手引書ではありません。むしろ著者の人柄や体験を基にした文章を通して、「祈り」の深さに与れるような本だと思います。一度読んだだけでは難しいと感じることも、時間をおいて読み直すと心にすっと響く、そんな魅力も秘めた小さくて素敵な一冊です。深まりゆく読書の秋に、この『祈り』と出会った方々が「祈り」の実りに恵まれますように。

(聖イグナチオ教会案内所 職員)

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

four × one =