遠藤周作『善人たち』


遠藤周作『善人たち』
(新潮社、2022年)

 

マリア・クララ(カトリック麹町教会所属)

本を手に取って先ず感激したのは、表紙だった。舟越保武氏の「聖クララ」
舟越氏の作品が好きで展覧会に行く。
本の表紙になると、その本に静寂をもたらす気がする。
この本には遠藤周作の戯曲三本が収められている。長崎の遠藤周作文学館で戯曲三本が発見された。その作品が刊行されたのだ。
1970年後半の作品だそうで、氏の充実されているころではないか。

【善人たち】
太平洋戦争開戦直前に牧師となるべくアメリカの留学した日本の青年。戦争が激化し、敗戦末期、南太平洋の島で敵として出会う。
この時期に地球上ではまだ同じような戦争が起き、若者が命を落としてゆくのは、なんと愚かなことであろうか。

【キリシタン大名・小西行長『鉄の足枷』】
戦国時代にキリスト教に帰依した大名は多く存在するが、経済の発展を目的としたものが多かっただろう。けれども宣教師たちの教えを聞くうちに心を動かされたことも事実ではないか。棄教を迫られたときに、自分の信念だけで動けるか、自分を頼っている家臣や領民のことを考えたのではないか。
小西行長の打ち首引き回しになる姿をキリストに重ねる。

【戯曲 わたしが・棄てた・女】
当時の普通の大学生の様子が描かれている。
地方から出てきた女の子も生きるために一生懸命だ。優しい心というのは持って生まれたものだろうか、愛されて育ったら身につくのか。優しさは一度受けると相手にとって忘れられないものになるのかもしれない。
捨てたということが生涯の傷となって疼く。
それでこの小説が生まれた……。

これらの作品は,遠藤周作没後二十五周年に当たる2021年12月に発見されたそうである。

 


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