アート&バイブル 35:キリストと姦淫の女


ロレンツォ・ロット『キリストと姦淫の女』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

この絵は、四旬節第5主日(C年、2019年は4月7日)に朗読されるヨハネ福音書8章1~11節に記される「キリストと姦淫の女」を主題にしています。作者のロレンツォ・ロット(Lorenzo Lotto, 生没年1480頃~1556)はルネッサンス期に活躍したイタリアの画家です(ヴェネツィアに生まれ、ロレートで没す)。宗教画の他、肖像画家としても活躍しました。ロットの作品の中に『受胎告知』(図1、『レカナーティのお告げ』ともいいます)がありますが、ユリの花をかざして近づいてくる天使ガブリエルに驚き、両手を挙げて逃げ出すようなポーズのマリアが描かれていることで有名です(第8回も参照)。

図1『レカナーティのお告げ』(1534年頃、レカナーティ市立絵画館所蔵)

ジョルジョーネ(Giorgione, 1476/78~1510)やティツィアーノ(Tiziano, 1490頃~1576)と同時代に活躍している画家ですが、ややエキセントリックで奇抜な画風でもあり、鮮やかな色彩と入念な細部描写を組み合わせた感情を描き出しています。

さて、ヨハネ福音書8章1~11節は、神殿の境内で教えておられるイエスの姿を述べるところから始まります。

そこへ、「律法学者たちやファリサイ派の人々が、姦通の現場で捕らえられた女を連れて来て、真ん中に立たせ」ます。彼らはイエスに「先生、この女は姦通をしているときに捕まりました。こういう女は石で打ち殺せと、モーセは律法の中で命じています。ところで、あなたはどうお考えになりますか」とイエスを試します。すくとイエスはかがみ込み、指で地面に何か書き始めます。彼らがそれでもしつこく問い続けるので、イエスは身を起こして言います。「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」と。これを聞いた者たちは、年長者から一人また一人と立ち去っていきました。

残ったのはイエスと真ん中にいた女だけ。なお、見をかがめて地面に何かを書いていたイエスは身を起こして女に言います。「婦人よ、あの人たちはどこにいるのか。だれもあなたを罪に定めなかったのか」。女が「主よ、だれも」と言うと、イエスは言います。「わたしもあなたを罪に定めない。行きなさい。これからは、もう罪を犯してはならない。」

このような出来事です。

 

図2『キリストと姦淫の女』(1527~29年、油彩、124×156cm、パリ、ルーブル美術館所蔵)

【鑑賞のポイント】

(1)訴えられている姦通の現場で捕えられた女性はイエスの右側にいます。イエスの右手は掌を広げており、神様の寛容さ(いつくしみの手を閉ざさない)を表しています。そして左手は下に向けて何かを指さしています。イエスの左側にはこの女性の罪を告発している人物たちが描かれており、イエスの左側にいる人物は指で天を指して、「この女の罪は天が赦すはずはない」と言わんばかりです。一番左外にいる人物の指はイエスを指しており、「あなたはこのような女を赦すと言うのか?」と非難しているように見えます。

(2)イエスとこの女性の間に顔だけが見える二人の男性がいます。一人は唇を強く結び、この女性を非難するような目つきです。そのすぐ後ろに好色そうな眼差しで、この女性に好奇な目を向けている男性が描かれており、それぞれの人物の心情を巧みに表現しています。

 


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