第42回日本カトリック映画賞レポート


2018年5月12日、第42回日本カトリック映画賞授賞式&上映会(主催:SIGNIS JAPAN、後援:カトリック中央協議会広報)が、なかのZERO大ホール(東京都中野区)にて行われました。

1976年に始まった日本カトリック映画賞は、毎年、前々年の12月から前年の11月までに公開された日本映画の中で、カトリックの精神に合致する普遍的なテーマを描いた優秀な映画作品の監督に贈られます。今回の授賞作は、長谷井宏紀監督『ブランカとギター弾き』です。また、シグニス特別賞が松本准平監督『パーフェクト・レボリューション』に贈られました。

 

『パーフェクト・レボリューション』授賞理由

SIGNIS JAPAN(カトリックメディア協議会)の顧問司祭である晴佐久昌英神父は『パーフェクト・レボリューション』の予告編を観て、「初めてこの映画を観たときの感動がよみがえりました」と話し始め、続けて「人間は素晴らしい。可能性がある。人と人が出会うことは素晴らしい。未来がある。私たちは本当に何があっても神様によって出会わされている、そのような家族なんだ。そんな思いを持たせてもらった映画です」と語りました。

シグニス特別賞『パーフェクト・レボリューション』の松本准平監督

この映画は、体の障害を持っている人と心の障害を持っている人の出会いを描いた作品ですが、私たちにも躊躇や恐れ、ひるむ気持ちがあり、障害を持っている人たちと上手くつながったり向き合ったりできないことから、「もしかして、私たちみんな恐れているという意味では障害者なんじゃないか」と晴佐久神父は指摘します。

そして、「そこを超えてつながることができたら、この世界はどんなに変わっていくだろうと。まさにパーフェクト・レボリューション。完璧な、完全な革命。神の国はもうすぐそこだ。私たちが障害を超えて、恐れを超えて、つながるならば」と、そのような可能性を見せてくれたことに対する感謝を述べました。

 

『ブランカとギター弾き』授賞理由

次に『ブランカとギター弾き』の授賞理由について、最近涙もろくなったという晴佐久神父は「もう何か申し上げるまでもないという思いでここに立っております」と言い、「今の自分にとって、私たちにとって、教会にとって、この世界にとって、一番大事なことがこの映画の中にこめられている。それを今観て改めて感じて、やっぱり私たちにとって人と人が本当に家族としてつながる、それが何より価値のあることなんだという、当たり前と言えば当たり前なんだけれども、一番この世界が忘れてしまっていることを思い起こさせてくれた」と力強く語りました。

第42回日本カトリック映画賞『ブランカとギター弾き』の長谷井宏紀監督

また、「最後にまったく血縁じゃない三人が、血縁の家族以上につながっているシーンは、私たちにとって本当に大きな励まし、希望、私たちもできるはずというようなそんな力になると、そう感じました」とも述べています。

この作品は上映前にSIGNIS JAPANの土屋至会長から紹介があったように、舞台も役者も言語もすべてフィリピンであり、唯一の日本的な要素は監督が日本人だということです。それについて晴佐久神父は、現在ご自身が力を入れている「福音家族」について説明したあとで、「この映画がそのような本当の家族をもたらす力を私たちに与えてくださるという思いで、この作品に自信をこめて、皆さんも納得していただけたと思いますけれども、シグニスから日本カトリック映画賞を差し上げることといたしました」と、この映画の授賞理由を述べました。

 

ピーターとの出会いと奇跡

晴佐久神父と長谷井監督の対談は、「いつもですと、もうちょっと冷静にお話しができるんですけど」という晴佐久神父のあふれる想いから始まりました。上映が終わったあとの休憩時間に初めて監督とお会いしたという晴佐久神父は、感激で涙が止まらなかったそうです。

話はまず、晴佐久神父の「どうしても聞きたいこと」であったピーターの話題から。映画の中のピーターを演じているのは、キャラクターと同じ名前のピーター・ミラリという人物です。生まれつき盲目だった彼は、8歳で両親を亡くして孤児となり、生きるためにお金を道端で集めて回ることから人生が始まったといいます。

そんなピーターと長谷井監督の出会いは、マニラにあるキアポ教会の地下通路でした。「彼は小っちゃい子にお金の番をさせて歌ってたんですけど、そのときに『この人と映画を作ってみたいな』と」監督は思ったそうです。それは、偶然にも短編映画の登場人物である盲目のギター弾きを演じる役者を探していたときでした。その後、『ブランカとギター弾き』を撮影するためにピーターを一ヶ月半かけて探し、再会。見つけたときは非常に嬉しかったし、ピーターも「また帰ってきたんだね」と喜んでいたそうです。

授賞式の様子

晴佐久神父が「監督とピーターとの出会いがね、すべてじゃないですか。ほかの誰か、役者がやってもこういう映画にならなかったと思うし、最後に『ピーターの魂は映画と共に全世界を旅している』っていうのを読んで、またぐっときて」「神がかってるっていうか、特別な力がすごく働いている作品だなっていうのは観ていてとっても思いました」と述べると、長谷井監督も同意し、「ぼくも撮影する日々の中で、本当にそういう奇跡がきらきらと毎日見えていたので、本当に良い時間を過ごさせてもらったなって」と話しました。

この映画と同じようなことがピーターの人生に起こっていたというのも、奇跡の一つでしょう。ピーターがキアポ教会の前でギターを弾いていると、11歳の女の子が毎日自分の近くに来て歌を歌い始めたそうです。ピーターは「自分はそれでお金を稼いでいるから来るんじゃない」と言ったそうですが、それでも毎日女の子が来るので一緒に稼ごうということになり、教会の前で一緒に歌っていました。そのうち、マカティのクラブのオーナーに誘われてそこでパフォーマンスをしていると、その女の子は大阪から来たカップルに養子に迎えられていった、ということがあったそうです。

何も知らずに脚本を書いていた監督は「そのときはもう鳥肌が立つというか。結局自分が書いてることに何かを招き入れたのか、それとも、何かある場所に招かれたのか、それはちょっとどっちなのかわからないですけど」と言うと、「何かそういうものを呼び込む力というか、選らばれし者みたいなオーラがあるような気がしますけどね」と晴佐久神父はコメントしました。

 

セバスチャンがいた!

ジョマル・ピスヨ演じるセバスチャンは晴佐久神父のお気に入りキャラクターですが、彼を見つけるまでに二ヶ月かかったそうです。「11歳の歌を歌える少女ブランカ」の役に「25歳のアクロバットができる男性」が来るなど、オーディションがなかなか上手くいかず、最終的には監督自ら街を歩きながら役者を探したとのこと。

最初は通り過ぎてしまったそうですが、何かぴんと来るものがあったらしく、引き返して演技をしてもらったところ、「アドリブがどんどん入ってきちゃって止まらない」「フィリピンのクルーも驚いていて、『彼は本当に才能がある役者だ』と言っていた」というほど天性の才能を持っていたと言います。そのとき、監督は「セバスチャンいた。いたんだ」と思ったとか。撮影中に急にいなくなるというトラブルもありましたが(海で泳いでいたそうです)、撮影を始めると一発OKというプロフェッショナルぶりも発揮したそうです。

SIGNIS JAPAN顧問司祭の晴佐久昌英神父

晴佐久神父は「自由で、やさしくて、そして一番大切なことを本人が知らずににじませている存在みたいな、とても新鮮なものを感じました。セバスチャン見つけてくれてありがとう。だから最後にセバスチャンが一緒にいて、またあれがツボでね」と嬉しそうに語りましたが、当初そのラストシーンにセバスチャンは出てこない予定だったそうです。「あの最後のカットはブランカの笑顔と涙っていうのは決めてたんですけど、あそこにセバスチャンはいなかった。ただ撮影をしていく中で、セバスチャンっていうものが本当に大きくなって」と監督は言います。

そのほかにも即興の演技やシーンがいくつも生まれたとのことですが、現場には通訳の人がいなかったため、「本当に言葉じゃなくて、映画って感覚っていうか感情っていうか、それが本当にとても重要」だと感じたとのことでした。

 

子どもたちの本当の豊かさや幸せを伝えたい

「今、日本の若い人たちはすごく狭い世界で常識の中にとらわれていますが、監督自身もお若いのに、こういう自由な発想があったり、フィリピンのストリートチルドレンの中に飛び込んでいったりして、神が降りてくる映画を作っちゃう。その秘密がね、どこにあるんだろうってすごく不思議な気がするんですよね」と疑問を投げかけた晴佐久神父。

それに対して長谷井監督は、基本的にお金を持たない旅なので、いろんな国のスラムや道端で人と出会ってきたと言い、中でもフィリピンのゴミの山で出会った8歳の少年のエピソードを挙げました。なんでも、ゴミの山で仕事をしていた子どもたちにアイスクリームを買うためにポケットから財布を出そうとしたところ、その少年に止められ、「コウキの分は俺がおごるよ」と言われたそうです。そのとき、監督は「この人たちかっこいいなって。世代っていうか、年齢ではないというか。本当にぼくはあそこの子どもたちの力に素晴らしいものを見た」と思い、「それをやっぱりお伝えしたいなっていう気持ちで(この映画を作った)」と言います。

さらに、「子どもたちの中に本当にすごく光る美しいものがあって、彼らの視点から社会を見たときに、何か伝えられるものはないかなっていうのがこの映画で」とも語り、「やっぱり子どもたちの本当の豊かさというか幸せ、そういうことを訴える映画っていうのが監督の今後の一つの(目標ですか)」と晴佐久神父が問いかけると、「そうですね。一つ、それは続けていきたいなと」と監督は答えていました。

 

対談の様子

長谷井監督の不思議な魅力

会長挨拶の中で、『パーフェクト・レボリューション』の松本監督がクリスチャンであることが紹介されましたが、実は長谷井監督もクリスチャンです。「先ほどうかがったんですけど、洗礼を受けてらっしゃる?」と晴佐久神父が尋ねると、「そうなんですよ。セルビア正教」と答えた長谷井監督。

長谷井監督の短編映画を気に入った映画監督がセルビアでリゾート経営をしており、そこで2年ほど食事と寝る場所を提供してくださったそうです。そのときに「コウキ、洗礼を受けてみる?」と言われ、「やってみようかな」と思ったのだとか。「セルビアの新聞の一面に載ったんですよ。日本人が正教の洗礼を受けたっていうのが、本当にもう新聞の一面にばーんと。セルビアにいた日本の大使館からも電話がかかってきて、長谷井さん今めっちゃ注目受けてますよって(言われた)」と当時のことを振り返りました。

そんな監督について、晴佐久神父は「何か最初ぱっとお会いしたときに、イエスさまに会ったような雰囲気が漂っていて。不思議な方ですよね」と印象を語り、「今ここの会場内のみんながきっとこの監督を応援したいってね、心から思っている」と続けると、会場からは拍手が起こりました。

最後に、晴佐久神父は「是非一層の素晴らしい作品を送り出してほしいと思いますし、ともかくピーターに会わせてくれてありがとう。ブランカに、セバスチャンに会わせてくれてありがとう。そういう思いでいっぱいです」と感謝を述べました。そして、「私たちももうちょっと街角ではっと出会うね、セバスチャンと深いかかわりを持ちたいし、通り過ぎるんじゃなく、ピーターと何かこう家族のように触れ合えるそんな恵み」を大事にしたいと言うと、「そうですね。それが広がっていけばどんどん幸せな力が広がっていって、過ごしやすい日常がどんどん増えていくんじゃないかなと」と長谷井監督も同意し、対談を終えました。

(文:高原夏希=AMOR編集部/写真提供:生川一哉)

 


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