日本における「家族と希望の物語」


土屋 至(SIGNIS Japan 会長)

2017年11月に東京で行われた「第5回シグニス東アジア会議」において、日本からは以下のようなことを報告しました(この記事はそのときのレジュメをもとにしています)。

 

1.日本の家族をめぐる環境について

まず、日本の家族をめぐる環境についてですが、やはり大きな問題となっているのは少子高齢化です。2025年には「団塊の世代」が後期高齢者(75歳以上)となり、人口の3分の1が高齢者(65歳以上)となります。そのとき、病院も福祉施設も満杯で、年金や保険もパンク状態となることが予想されます。これが「2025ショック」と呼ばれるものです。

現状としては、医療施設や福祉施設から溢れた分を「地域」が引き受けざるを得ず、在宅介護を中心とする「地域包括ケア」が必要とされています。また、生産にたずさわる人口の減少、競争力の低下、景気の低迷による働き手の不足を、外国人労働者によって補わざるをえなくなっています。

 格差社会とこどもの貧困も大きな問題の一つです。低い給与で長時間働かされている非正規労働者の増大、共働きの増加、母子家庭ならびに貧困家庭の増加、子どもの貧困など、枚挙にいとまがありません。日本は経済大国で裕福だというイメージがありますが、子どもの貧困率は13.2%(2016年)と高く、子どもの約7人に1人が貧困状態にあるというのが現状です。

さらに、いじめや差別、自殺/自死の多さも目立ちます。10年前に比べると全体の自殺率は減少し、年間約21,000人にまで減少していますが(2016年)、若者の自殺は増えています。

最後に、被災地復興の現状についてですが、ボランティアや支援金が減少し、忘れられつつあります。特に福島では、まだ自分の家に戻れずに他県に住む人たちが多く存在しています。復興も停滞していると聞きます。

 

2.日本の教会の現状

次に、日本の教会の現状についてですが、日本の社会と同様に、教会司祭や修道者、信徒の高齢化と減少が問題となっています。

また、教会と地域との関係ですが、これまで特に都市部の教会は地元地域社会とよき関係を築くのがあまり上手でなかったのではないかと感じています。そのため、これからは「地域・福祉・教会」の関係の構築が必要となってくるでしょう。

前述に自殺の話題がありますが、カリタス・ジャパンのキャンペーンテーマは「自殺防止キャンペーン」から「排除のない多様性社会を求めて」と、社会の現状に合わせて変化しています。

 

3.「希望の物語」を紡ぐ人々

このような現状の中で、「希望の物語」を紡いでいる人たちがいます。東アジア会議には、映画『さとにきたらええやん』の舞台となった「こどもの里」館長である荘保共子さん、青少年の居場所づくりをしている「Kiitos」の白旗眞生さん、カトリック片瀬教会の有志の皆さんと片瀬地区に住む有志のチームで活動している「まりあ食堂」の相澤純子さんをお呼びして、話を聞きました。

そのほかにも、晴佐久昌英神父が行っている「福音家族」や「一緒ごはん」、福島から東京などに避難している家族と子どもたちの支援活動にとりくむ「きらきら星ネット」、モンテッソーリ風のこどもの居場所づくりをしている「多世代交流こどものいえ」など、さまざまな団体・活動を通して、「希望の物語」を紡いでいる人たちがいます。

【そのほかの活動例】

・「JLMM(日本信徒宣教者会)」の若者をベトナムやカンボジア、被災地への体験旅行を企画している。

・「癒しの里」福岡県豊津町で老人ホームを造った人たち

・自主夜間中学に関わっている人たち

 

土屋至会長

4.SIGNIS Japanの紡ぐ「希望の物語」

私たちSIGNIS Japanも「希望の物語」を紡ぐ一員として、2016年度日本カトリック映画賞に『この世界の片隅に』を選出しました。これは、戦争中の「家族」を描いた物語です。また、webマガジンAMORを刊行し、「地域・福祉・教会」を生きている人たちの発掘紹介をしていく予定です。

ほかにも、カリタス・ジャパンとのコラボレーションや「地域・福祉・教会」のための教会ホームページの活用など、さまざまな活動を通して、現代における家庭・家族の問題と向き合い、「希望の物語」を紡いでいきたいと思います。

 


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