アッシジの思い出


林史子(上智聖歌隊OG)

今年2月、大学生の頃に所属していた聖歌隊サークルの隊員たちとイタリア巡礼旅行に行ってきた。ローマなど4都市を巡りながら各地の教会のミサで聖歌奉仕をさせてもらう9日間の旅程で、その中にアッシジに行く日が2日含まれていた。

丘の頂上にある中世の要塞「ロッカ・マッジョーレ」から見たアッシジの旧市街と田園風景(写真提供:宮越俊光)

アッシジについては「聖フランシスコが生まれた所」ということしか知らなかった。過去にアッシジに行ったことのあるメンバーは「すごくいい所だった」「また行けるなんて楽しみ」「きっと気に入る」と言っていたのだが、その時は全くピンとこなかった。まさかもう一度行きたいと思うようになるとは、この時は全く思っていなかった。

ローマから2時間ほどバスで移動して、アッシジに到着したのは夜。ローマの喧騒が嘘のように静かで、冬の空気も相まってしんとしていた。町全体が小高い丘のようになっていて坂が多く、家々は石造りで、まさに旅行番組で見る「ヨーロッパの田舎町」のイメージだ。

翌朝起きて宿の屋上から景色を眺めると、オリーブ畑が町の外いっぱいに広がっている。とてものどかな雰囲気だ。人口密度もそれほど高くないので、散歩をするのも開放感たっぷり。治安の良さも魅力だろう。私は一人でぶらぶらしていたのだが、気付かずにリュック全開で歩いていたにもかかわらず何も盗まれていなかったほどだ。(ちなみに会社のスマートフォンが入っていた。)店が集まる通りにはオリーブや刺繍などを扱った雑貨店、レストランなどが立ち並び素敵な雰囲気。聖フランシスコに関する雑貨もたくさん売っていた。

旧市街にあったシクラメンの鉢で綺麗に飾られた建物(写真提供:小島レナ)

聖フランシスコ大聖堂に向かうと、その大きさに驚いた。日本で大きい建物というと高層ビルを思い浮かべることが多いと思うが、この聖堂は横にも大きく、どっしりした風格がある。修道士の方に中を案内してもらうと、損傷はあるもののジョットの壁画があったり、15世紀に作られた聖歌隊席があったりと、かなりの歴史がある教会だとわかった。聖フランシスコが描かれたものもあり、地域に愛された聖人であることがうかがえる。

修道士の方のご厚意で主聖堂で実施されたミサの聖歌奉仕をさせてもらったのだが、ミサの様子がFacebookを通じて全世界に発信されていた。日本ではあまり見ない試みだし、伝統ある聖堂で最先端の技術を取り入れていることに驚き、感心した。ミサでは聖歌隊席に案内してもらったのだが、その造りや音響も今まで訪れた中で最も素晴らしく、今でも忘れられないほどだ。

聖フランチェスコ大聖堂前の広場。周囲には美しい回廊が巡らされている(写真提供:中嶋紗香)

ミサの後、聖堂内に展示してある聖フランシスコの遺品を見せてもらった。中でも印象的だったのは聖フランシスコが着ていた服だ。元の服の部分が見当たらないほどにツギハギで、清貧を生きる意思の強さを感じた。きらびやかな生活を捨てて旅立った聖フランシスコの生涯が、あの服に詰まっているように感じた。

アッシジは静かで素朴で、とても良い町だった。この巡礼旅行を通じて、私もアッシジが好きな人間の一人になった。まだ訪れていない聖堂もあったので、アッシジを発つのは本当に嫌だった。いつかまた必ず訪れて、今度は町の端から端まで歩いてみたい。

 


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