夏休みに戦争と平和の授業を続けて―清泉女学院中学高等学校での実践―


梁瀬 正彦

20年ほど前、夏休みの授業の直後、ひとりの学生が「先生、授業時間が少ないから、夏休みにも授業したら?」と言いに来ました。この一言がきっかけで、夏休みの8月15日の終戦記念日に「戦争と平和について考える特別授業」を始めたのです。ずっと以前から、「平和憲法」を掲げているこの国で、「平和教育」が真剣に行われていないと感じていました。沖縄・広島・長崎で行われている「平和教育」を、自分の学校で8月15日に授業という形で行いたいと思ったのです。

「戦争と平和」をテーマとするこの特別授業では、リアリティを最も重視し、感性を刺激するとともに、支配欲や攻撃性などを含めた人間性について多角的に考察し、極限状況における人間の在り方に対する問題意識を持ち、現代社会と自分との関わり方を探求することを目標にしたいと強く意識しました。

21回目となる2017年の授業の概要を紹介したいと思います。この授業は、当初、在校生(中1~高3)へ自由参加を呼びかけ、毎年30名前後の参加者がいましたが、その後、卒業生が徐々に増え、今回は、参加者約80名の大部分が卒業生と在校生の保護者でした。参加者についての制限はなく、小学生から高齢者まで、また他校の生徒が参加することもあります。私の独断で始めたこの授業も、その後、校長以下教科の教員の応援協力を得て、退職後も夏休みの恒例行事として存続が認められています。

学校の時間割で2時限目から6時限目まで、30分の昼休みを除くと約5時間の授業は、1年間収集した新聞記事を中心としたプリント約20枚(B4両面)と主にTV番組の録画映像を教材として行っています。

梁瀬正彦氏(下記ブログより、許可を得て掲載しています)

この年のプリントの記事の主なものは、投書特集「語り継ぐ戦争」(朝日新聞が年6回戦争体験者の投稿を特集するもので、軍隊生活の生々しい体験や軍国主義体制・教育の実態、原爆や都市空襲による市民生活の破壊などの体験やそこから生まれた反戦の主張や平和への希求などがリアルに訴えられていて、毎年、重要な資料になっている。この年プリントした投書数は約40)、核兵器禁止条約や広島・長崎関連の記事(栗原貞子の「加害と向き合う原爆詩」や森重昭氏の活動を取り上げた記事など)その他に「沖縄戦」「シリア内戦」に関する記事。次に「教育の場で平和主義を貫く」(戦前ミッションスクールのアメリカ人牧師一家が追放殺害されたという内容)「汝の敵を愛せるか」「満開の桜と城山さんの気骨」など平和主義・平和運動、戦争の本質や組織の問題点を取り上げた論説、「カトリック生活」「聖書と典礼」などカトリック教会関連の冊子の記事などです。映像では、核兵器禁止条約採択に絶大な貢献をした広島女学院出身のサーロー節子さん・二重被爆者山口つとむ氏・従軍カメラマンだったジョーオダネル氏の活動などです。

こうした教材から、戦争体験を引き継ぐ大切さを実感し、各自の「平和」論を作っていくきっかけになることを期待するのですが、その中で最も重要なのは、戦争体験者のすべてが「戦争は絶対にしてはならない。二度とくり返してはならない」と強く主張しているのに、なぜ当時の全体主義・軍国主義体制に反対できず、戦争への道を進んでしまったのか、戦争を推し進める国家や時代の流れに対して、ひとりひとりの個人は、どう行動すべきなのかという問題意識です。その中に投げ込まれたかのような国家や時代に対して、また自分が所属する集団や組織に対して、一人の人間としてどう対峙したらよいのかという、「現代社会における自分の生き方・あり方に対する自覚」の大切さです。それをこの特別授業をきっかけに心に刻んでほしいと願っています。こうした観点から、この年の授業で最も重要な教材として強調したのが、城山三郎さんの「旗」と題する詩でした。

「旗振るな 旗振らすな 旗伏せよ 旗たため/社旗も校旗も 国々の旗も 国策なる旗も 運動という名の旗も/ひとみなひとりひとりにはひとつの命…生きるには 旗要らず/旗振るな 旗振らすな 旗伏せよ 旗たため 限りある命のために」

軍国主義教育と強烈な軍隊生活の洗礼を受けた体験から、戦後は一貫して個人の自由・幸福を軽視するさまざまな旗=組織・集団優先のスローガンに対して、はっきりと拒絶する姿勢を貫かれた城山氏の、この詩に込められた信念に強く共感を覚え、この国の中で、今でもさまざまな「旗」のもとで、個人が集団の犠牲とされていることに強い関心と問題意識を持たずにはいられません。

私は、一人で自らこの特別授業を、年にたった一日だけの平和活動としてやってきました。授業の最後に提出してもらう参加者全員のリアクションは、その後コピーし、私のコメントをつけてプリントにして全員に郵送しています。一人ひとり自らできる平和活動の輪が広がっていくことを願って…。

 

【参考】
この授業を受講した卒業生のブログ記事:「戦争と平和を考える授業」

 


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