齋藤克弘
皆さんは音楽を聞こうとするとき、どのような方法を使いますか。「方法」なんていうと大げさですが。言い方を変えてみましょう。いつも生演奏を聞いているなんて人はいらっしゃいますか。え、ドラえもんのスネ夫だってそれは無理でしょですって。ドラえもんにでも頼めば道具を出してくれるかもしれませんね。
おそらく多くの皆さんはインターネットでダウンロードした音楽を自分のスマートフォンとかパソコンを利用して、あるいはCDを購入して聞いていると思います。言い換えると、ほとんどの場合、生演奏ではなく録音された音楽を聞いているのが現代の音楽の享受の主流だということです。
でも、ちょっと想像してみてください。もし、電気が使えない世界に行ったら皆さん、どうやって音楽を楽しみますか。よく、無人島に1冊だけ本を持って行けるとしたら何を持って行きますかっていう質問がありますが、それに似ていますけれど。いや、もし皆さんのスマホとかの電源が切れて充電もできなくなったら、電車の中でどうやって音楽を聴きますか。この方がわかりやすいかもしれませんね。
電気が使えないということは、パソコンやモバイルフォンはもちろん、デッキやプレーヤーも使えない、つまり、録音された音楽を聞くことができないってことですよね。簡単に充電する設備がある今の日本では想像すらできないことかもしれませんが。
でも、人間の長い歴史の中で、つい100年ほど前までは、それが当たり前だったんです。電気はもちろん、録音技術なんてありませんでしたから。前回も書きましたがエジソンが「フォノグラフ」を発明したのが1877年ですからまだ150年になっていません。まして、多くの人が自宅で録音した演奏を聴けるようになったのは、日本ではおそらく戦後になってからでしょうし、移動しながら音楽を聴けるようになったのは「ウォークマン」ができてからです。
電気にしてもベンジャミン・フランクリンが雷が電気であることを発見したのが1752年ですからこちらは約260年前。そして、皆さんの中にも苦手にしている人がいるかもしれませんが音楽を記録する技術、楽譜。今の五線譜の元ができたのもつい1000年くらい前なんです。
100年、200年、さらには1000年を長いと感じるか短いと感じるかは人それぞれですけれども、物事を広く深く知るためにはなるべく長いスパンで物事を見てゆくことが大切ですから、場合によっては1000年だって1万年だって、つい最近のこととしてとらえる必要もあります。
こういうことを前提にしながら、次回はまず「楽譜」についてみていくことにしましょう。(典礼音楽研究家)