英国の登山学校「アウトワード・バウンド・スクール」の思い出1


古谷 章

 

アウトワード・バウンド・スクール(OBS)について

今からちょうど50年前の1972年9月、私は英国のレイク・ディストリクト(湖水地方)にあるOBSエスクデール校の4週間にわたるコースに入学した。

OBSは1941年に英国で設立され、英国内はもとより英連邦の国々を中心に世界中に数十校を展開する全寮制の学校で(1989年に日本でも開校した)、野外活動を通して青少年を育成することを目的としている。エジンバラ公(当時)をメインスポンサーとし、今なお続く貴族制度によって維持されている非営利主義の学校だ。誰にでも門戸を開いていて、私が学んだ当時の授業料は80£(約5万5千円=当時のレート)だった。

それぞれの学校はその地域の特色を生かしてプログラムを組んでおり、私の学んだエスクデール校はイ

Outward Bound School全景 石造りの校舎と寄宿舎 前面にあるのが一周800mの池

ングランド最高峰のスカフェル・パイク(標高978m)をはじめとする英国としては高い山々の連なる地域にあるので、登山を中心とした活動が行われていた。そのためアウトワード・バウンド・マウンテン・スクールとも称されていて、近代登山の発祥の地としての英国の矜持を感じさせられるカリキュラムとなっていた。

ワーズワースやハリーポッターで知られる湖水地方の風光明媚な景色の中で、登山だけでなくカヌーなどのアウトドア活動や様々なプログラムが盛りだくさんに用意されていた。

この学校は当時の日本ではほとんど知られておらず、私が日本からは初めての入学者だった。ヨーロッパの大陸や北米からの入学者も時々来るそうだが、ちょうどその時のコースでは私がただ一人だけの「外国人」だった。

私はそれまで日本でわずかながら登山の経験を積んではいたが、近代登山の本家である英国で登山を学びたいと願って入学し、多くのことを学んだことはもちろんだ。しかし半世紀を経た今、思い出すのは登山とは直接関係のない「枝葉」のことがらだ。記憶は薄れているが、それを改めて思い起こすことで彼我の違いを考えてみたい。

 

軍隊用品の販売店

事前に送られてきた入学案内には、講習中に必要な衣類などは英国国内の各所にある「Government Surplus Store」で揃えることができる、と記されていた。そこで英国に渡り、ロンドンの北西にある町、ウースターの親類宅を訪ねて、その町にある店で衣類などを買い揃えた。

店内には軍隊用の服や靴など新品、中古品ともに様々に豊富な品揃えで、入学案内に書いてあった通り、どれも安くて丈夫なものだった。特にここで買った軍用のカッター・シャツはその後、日本に帰ってからも十年近く登山時に使用できたくらいだ。この店の存在は英国人にとっては「常識」らしく、市民も軍用品を日常的に使っているようだった。

 

学校集合までのミニSL列車

学校に集合(入学)の当日は、まずウースターから英国国鉄の列車をいくつか乗り継いで、西にアイリッシュ海を臨むレーベングラスという小さな町に行った。そしてそこから数kmをミニSLの牽引する列車に乗って東に向かった。一般客のほか、私と同様にOBSに入学する数十人の若者が乗り込んだ。

このミニ列車は遊園地にあるような小さな列車だが、立派に公共交通機関としての役割を果たしていた。そして今でも現役で運行しているそうだから、いかにも鉄道を最初に走らせた英国人の「鉄道愛」だと納得する。

鉄道マニアの私ではあるが、その時は英語も覚束ないままにこれから行く学校のことを思うと緊張して、落ち着いて見る余裕もなかったことは今にして思えば悔やまれる。


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