山田真人
前回の記事では、英文学と神学の繫がり、そしてそれがどのようにキャリアに繋がっていったかという点をお話ししました。その中でポイントになったのは、社会課題やNPO、企業などのセクターを繋いでいく力でした。今回は、多様性の中の一致が特に必要で、多くの国々が自らの課題として向き合い、自国の背景と繋げて解釈して寄り添う必要性に迫られているアジアの宣教について考えていきます。
なぜ、アジアのことを今回考えるのかについて、最初にお話しします。2025年9月15日から18日にかけて、ベトナム・ホーチミンでFABC(アジア司教協議会連盟)の集いが開催され、アジアの教会が直面する課題を共有し、未来の方向性を模索する貴重な機会となりました。テーマは「移民と多様性の中の一致」でした。
アジアの国々は、今までマラウイを通してお話をしてきたアフリカに対して、多様性と1国の占めるカトリック信徒の割合が高いという特徴が挙げられます。その一方で、他宗教との対話などの課題も各国内で多くあります。こうしたアジアの背景を見ることで、この連載のテーマであるDoing Charity by Doing Businessと日本のカトリック教会ができることを、それらの国が持つ社会課題と向き合うことで考えることは、未来の教会の世代を考える上で大事だと考えています。
アジアは世界人口の半数以上を抱え、全世界のカトリック信徒の約11%にあたる1億5,000万人以上の信徒を擁しています。他宗教との共生や移民の急増、デジタル化の加速など複雑な課題に直面しつつ、同時に「希望の源」として世界教会に新たな風を送り込んでいます。特に、教皇フランシスコが掲げる「青年教育」と「国際開発」は、アジア社会に深く関わるテーマであり、FABCの対話と連帯の精神と響き合っています。詳しくは、こちらもご覧ください。
日本のカトリック信徒は人口のわずか0.3%に過ぎません。しかし、全国には幼稚園から大学まで800校以上のカトリック学校が存在し、教育や福祉を通じて社会に確かな影響を与えています。少数派だからこそ、アジアとの国際的な連携や多宗教社会での対話の場で独自の証しを立てる可能性が広がっています。同じモデルを、香港や台湾にも生かすことができる可能性があります。2025年のFABCでは多くの若者が自分の国の青年司牧について話す機会がありました。その中では香港の学生が、国からの助成金がなく、高齢化や世俗化が進む中では、カトリック学校としてのアイデンティティやその特徴による経営の困難を挙げていました。一方で、いまだに香港にも多くのカトリック学校が存在している点は、日本と類似しています。
筆者が代表を務めているNPO法人せいぼでは、「子どものための学校給食」を軸に、マラウイをはじめとするアフリカでの支援を展開しつつ、日本国内のカトリック学校や青年教育の現場と連携しています。コーヒーやチョコレートといったフェアトレード商品の販売を通じ、学生たちが「学びながら支える」仕組みを実践しています。これは、教皇フランシスコが提唱する「教育を社会変革の中心に据える」Global Compact on Educationの精神を意識しており、教育と国際開発を結ぶ事例となればと考えています。
国際支援であれば、海外送金で同じ国への同様のミッション的目的の下での支援の展開、オンラインでの交流や国際理解、言語教育としてのカリキュラムの創設によって、海外の大学や高校とも協力し、アジアが繋がることができます。もしくは、アジアの社会課題に対してソーシャルビジネスのアイデアを創り、メディア活用のガイドラインを伝えることもかねて、学校でオンライン環境を利用した協働のマーケティングなどもできると思います。
(FABCに関する詳しい記事は、こちらから)
先述のFABCの集いでは、移民労働者とオンライン環境の変化が大きな焦点となりました。例えば、ベトナムからは多くの青年が日本に出稼ぎに来ており、その背景には貧困や格差が横たわっています。こうした現実に対して、教会は単なる宗教活動にとどまらず、教育や社会福祉を通じて「伴走者」となる使命を担っています。
また、デジタル時代に生きるアジアの若者の60%は「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代であり、SNSやオンライン文化が自己像の形成に大きな影響を与えています。FABCでは「Self Imageと召命」をテーマに、カトリック教育を通じてデジタル環境でも信仰に根差した生き方を育む必要性が議論されました。これは日本の若者にとっても喫緊の課題であり、カトリック学校やNPOの活動が果たす役割は大きいといえます。
NPO法人せいぼが推進する「給食支援×ソーシャルビジネス×教育」のモデルは、FABCの考える課題への応答として捉えることも可能です。マラウイの子どもたちの栄養改善という直接的な支援に加え、日本の学生がフェアトレード商品を販売し、学びの中で社会的責任を体験する仕組みは、「周縁の声を中心に据える」という教皇フランシスコのビジョンへの共鳴になると考えています。
さらに、この取り組みは日本だけでなく、ほかのアジアの国々でも展開が可能です。教育と国際開発を結び、移民や難民の課題に応答し、デジタル時代の若者の価値観形成に貢献することもできると思います。こうした「学びと実践の循環」が、アジアのカトリックが世界に与える社会的・宗教的影響をさらに強めて欲しいと考えています。
最後に、アジアの人々がアフリカのマラウイを通して、アジア自身の課題も考えつつ活動することの意義に触れて、今回の記事を閉じたいと思います。アジアのFABCに対して、アフリカにはSECAM(Symposium of Episcopal Conferences of Africa and Madagascar)があり、1969年、ウガンダのカンパラで教皇パウロ6世が「アフリカのカトリックはアフリカのものである」と強調したことが契機になっています。政府との直接の関係を司教や教区教会が持っており、インフラ整備などにも関わっている点が、アジアとは異なっています。多様性と社会課題の各国のカトリックの占める割合を考えると、アジアの方が優先課題にはなるのが現状です。しかし、アフリカの人口増加、召命の数、インフラを含めた国の存続に関わる大きな課題への介入を考えると、次の世代ではアフリカのSECAMも視野にいれることが必要と考えられます。
次の記事では、このアフリカも徐々に意識しつつ、2025年9月に行われたFABCについて分析を加えていきます。
山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。