カトリック教会のレバノンへの眼差し~~シノドスと教皇メッセージの動向~~


AMOR編集部

カトリック教会には、第2バチカン公会議(1962~65年)後、この公会議の精神を継続すべく、シノドスと呼ばれる世界代表司教会議が定期に、また臨時に行われています。その会議での討議を踏まえて、ローマ教皇は、シノドス後の使徒的勧告を公布するというのが慣例です。

教皇ヨハネ・パウロ2世の時代、紀元2000年を迎えるにあたってさまざまな大陸別のシノドスが1990年代に続々開催されました(特集75「使徒的勧告『アジアにおける教会』が見たアジア」参照)。その中で、1995年、レバノンのための特別シノドスが開催されていたことが注目されます。

シノドスの歴史の中で、レバノンのみ一国のためにそれが開催されているというのはどういう理由でしょうか。岐阜県ほどの大きさといわれ、人口400万人余りのレバノン共和国が抱える歴史の深さ、複雑さに対して、カトリック教会がどのような眼差しを送っているのか、主な動きをバチカン公式サイトとバチカン・ニュースのサイトをもとにまとめておきます。

 

1995年のレバノン特別シノドスと、1997年のヨハネ・パウロ2世の使徒的勧告

レバノンの教会のための特別シノドスは、1995年11月26日にバチカンで開催されています。それは、1975年に勃発した内戦が1990年に終結し、シリアの実質的な支配下(1990~2005年)にあった時期でした。このシノドスを受けて1997年5月10日、教皇ヨハネ・パウロ2世は、レバノンの首都ベイルートを司牧訪問し(~11日)、使徒的勧告『レバノンのための新たな希望』を発表しました(125項目)。

この文書では、レバノンという国の国家としてのアイデンティティのルーツにキリスト教の諸教会・諸教派があり、さらにイスラム教のスンニー派、シーア派、さらにドルーズ(ドゥルーズ)教など多様であることが確認され、内戦後の国家・社会の再建、それに参画する教会の各層の役割、使命、諸教会の交流、諸宗教との交流に向けての励ましと指針がまとめられていました。

第2バチカン公会議後、カトリック教会では、諸教会・諸典礼の伝統の多様性を認め、受け入れ、尊重する姿勢を示し、さらに諸宗教との交流にも積極的な態度で臨み、世界と人類の平和と幸福のために協働を推進するようになっています。その態度のいわば試金石となっていることが、レバノンなのではないか、と感じます。ここに現代教会の関心事と使命の重要な最前線があるということです。

 

2010年の中東特別シノドスと、2012年のベネディクト16世の使徒的勧告

次にレバノンを含む中東世界全体に対する特別なシノドスが教皇ベネディクト16世の時代に開催されています。2010年10月10~24日に開催された中東の諸教会の特別シノドスで、中東地域の東方典礼カトリック教会の諸教会(メルキト・カトリック教会、シリア・カトリック教会、マロン教会、カルデア・カトリック教会、アルメニア・カトリック教会、シロ・マラバル教会、シロ・マランカラ教会など)の間で、教会の多様性の中での一致、諸宗教との交わり、教会各層の役割と使命を第2バチカン公会議の精神を踏まえて検討し合うものでした。

このシノドスに応答する使徒的勧告を教皇ベネディクト16世は、2012年9月14日、レバノンを司牧訪問したとき(~16日)、ベイルートで発表しています(100項目)。

レバノンに対する影響の大きな隣国シリアでの危機が内戦に転じた(2012年7月)直後の訪問でした。

 

教皇フランシスコの祈りとメッセージ

2019年以降、レバノンは経済危機に陥っており、2020年8月4日にはベイルート港爆発事故という惨事が起きています(218人死亡、7000人以上負傷)。これを機に反政府の気運が高まり、内閣総辞職にも至りました。こうした国情に対して教皇フランシスコは心を痛め、同年9月3日、事故発生一カ月にあたる9月4日を「レバノンのための祈りと断食」とするよう全教会に呼びかけました。

2020年12月24日、主の降誕の夜半にあたり、教皇フランシスコは、「レバノン国民への手紙」を発表していしています。

この中で、フランシスコは訴えています。

「(降誕夜半に読まれる)イザヤの預言に『闇の中を歩む民は、大いなる光を見』(イザヤ9・1)たと、あります。この光は、……神の摂理がレバノンを決して見捨てず、この悲しみの時を善へと変えるたしかな希望を一人ひとりに植えつけてくれます。……神の存在と誠実さに信頼してください。杉のように、あなたがたの生活の共通のルーツに立ち返り、あなたがたが再び兄弟的連帯に生きる人となるようにしてください。現在のさまざまな出来事を最大限に活用して、相互の尊敬、共存、多様性尊重の精神の甘美な香りを全世界にもたらすという、自らのアイデンティティを再発見することができますように」(試訳)

2021年7月1日、教皇フランシスコはバチカンでレバノンのキリスト教諸共同体の指導者とともに「レバノンのための考察と祈りの一日」を行いました。同国の東方典礼カトリック教会(マロン典礼、シリア典礼、メルキト・ギリシア典礼、カルデア典礼)、正教会、アルメニア教会、福音派教会などの指導者が参加し、レバノンの平和と安定のためを考える集いとしています。

2022年2月、教皇フランシスコは、「状況が許せば」年内にレバノンを訪問するとの意向を明らかにします。2022年は、バチカンとレバノンとの国交樹立(1947年)75周年、そして、上述した1997年のヨハネ・パウロ2世のレバノン訪問25周年にあたる年であり、フランシスコには、同国訪問に対する格別な思いがあると、外務長官ギャラガー大司教が明らかにしていました。しかし、同年5月、健康上の懸念から訪問を延期することになったと発表されています。レバノンのこれからの動向とともに、教皇フランシスコの念願の訪問が実現するかどうか、ともに注目される現在です。

 

【レバノンの歴史、最近の政治・社会状況に関する参考文献】
堀口松城『レバノンの歴史(世界歴史叢書)』(明石書店 2005/11/30)
安武塔馬『レバノン-混迷のモザイク国家』(長崎出版 2011/7/15)
安武塔馬『シリア内戦』(あっぷる出版社 2018/12/15)

 


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