Doing Charity by Doing Business(26)


山田真人

前回は、NPO法人せいぼと協働する塾を紹介しながら、時代に沿って独自の仕方で過去を振り返りながら社会の中でゆっくりと螺旋状に進化していく教会史をみてきました。今回は、具体的な人物を通して教会の姿を深めることによって、現代はどんな段階にあり、どのような活動が求められているのかを考えていきます。

2021年10月のSynod for Synodality開幕式前、パウロ6世ホールにてJean-Claude Hollerich 神父様と

まず、教皇の歴史と青年司牧を見ることで、現代に求められている社会司牧を考えていきます(教皇フランシスコのもとめる青年司牧については、こちらもご覧ください)。特に、19世紀後半から21世紀の流れは、フランス革命、イタリア統一などの世俗との戦いと共存の中で多くの試行錯誤があったと考えられるため、その部分の歴史を掘り下げます。前回の記事でも触れましたが、ピウス9世(在位1846~78年)は、他国との圧力がある中で保守化してしまった一方で、サレジオ会の認可や無原罪の御宿りの教義を確立し、カトリックのアイデンティティと司牧において重要な役割を果たしました。

その後のレオ13世(在位1878~1903年)は労働者にも目を向けることで、世俗社会の課題を積極的に取り込み、公正な労働条件や労働者の権利を支持しました。これが近代社会司牧活動の基盤となりました。その「レオ」を引き継いでいるのが、2025年5月に就任したレオ14世になります。レオ14世は5月10日の教皇選出後初の枢機卿団への公式演説で、「レオ13世教皇は、第一次大産業革命という文脈の中で社会問題に言及されました。今日、教会は、新たな産業革命と人工知能(AI)の発展に対応し、社会教義という宝をすべての人に提供しています」と述べています。

この19世紀から20世紀の展開期において活動した修道会が、21世紀の現代でも大きな影響を持っています。19世紀後半から20世紀には、産業革命後の社会問題に対応するため、サレジオ会は青少年教育に専念し、扶助者聖母会やイエスのカリタス修道女会は、特に女性と子どもの福祉に重点を置いた活動を行いました。これらの修道会は、教会が社会正義をどのように具体化し、実施したかを示しています。修道会以外にも、聖ホセマリア・エスクリバー(1902–1975)はスペイン内戦の中でも司祭職を全うし、迫害の中でも信徒使徒職の会員を守りながら仕事を通して世の中を聖化することを貫いた人物であり、オプス・デイの立役者です。

こうした流れを組んでいるのが、前教皇フランシスコから新教皇レオ14世の繫がりかもしれません。フランシスコ教皇は2016年にSuper Dicasteryと呼ぶ新しい部署を立て、それは現在、Dicastery for the Laity, the Family and Life(いのち・信徒・家庭省)と、Dicastery for Promoting Integral Human Development(総合的人間開発省)となっています。その影響で、2019年にはサンピエトロ広場に移民の像も建てられました。こうした活動を引き継ぐような形で、レオ14世は13世の社会への視野に合わせて、マイノリティの人の持つ困難にも関われるようなアメリカ出身の教皇として選ばれたのかもしれません。一方で、「いのち・信徒・家庭省」の下部組織には、International Youth Advisory Body(国際青年諮問機関)があり、教皇フランシスコの優先順位が、社会の中でのマイノリティと青年司牧と教育であることもよくわかります。

バチカンの国際青年諮問機関のメンバーとの写真

以上のような教皇と修道会などの社会司牧の繫がり、そして社会の動きを見ていくと、教会は螺旋状に過去を振り返りつつ先に進んでいることが分かります。こうした中で世界のマイノリティと教育、青年司牧に関わる活動の一つとして、NPO法人せいぼはマラウイの給食支援を展開しています。私たちが実施している活動は、日本のカトリック学校とも提携し、マラウイの小さなコミュニティ型の子どもセンターへの給食支援を促進することです。その姿が教会の歴史の中での働きとしても、力を少しでも発揮できればと思います(NPO法人せいぼの最新の活動については、こちらもご覧ください)。

 

山田 真人(やまだ・まこと)
NPO法人せいぼ理事長。
英国企業Mobell Communications Limited所属。
2018年から寄付型コーヒーサイトWarm Hearts Coffee Clubを開始し、2020年より運営パートナーとしてカトリック学校との提携を実施。
2020年からは教皇庁いのち・信徒・家庭省のInternational Youth Advisary Bodyの一員として活動。

 


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