八犬伝


滝沢馬琴という江戸時代の作家の作品「南総里見八犬伝」という作品をご存じでしょうか。50代後半から60代の方なら覚えているでしょうが、1973(昭和48)年月から1975(昭和50)年3月までNHKで放送された辻村ジュザブローの人形劇「南総里見八犬伝」という作品がありました。当時はその時間になると、街から子どもがいなくなるといわれた作品です。その作品には私も夢中になりました。ちょっと大げさですが、私の人生に少なからず影響を与えた『南総里見八犬伝』がタイトルは『八犬伝


』として映画になったと知り、さっそく観に行きました。

江⼾時代の⼈気作家・滝沢⾺琴は、友⼈の絵師・葛飾北斎内野聖陽を前に、構想中の物語を語り始めます。

室町時代、安房国(今の千葉県)の領主:⾥⾒義実は、主君を惑わせ操った悪⼥・⽟梓を処刑しますが、その際、⽟梓に呪いをかけられてしまいます。

時が経ち、近隣の武将に攻め込まれ⾥⾒家が劣勢になった時、義実が娘の伏姫の飼い⽝・⼋房に「敵の⼤将の⾸を取ったら、姫を嫁にやろう」という戯⾔を⾔います。⼈の⾔葉を理解する⼋房は、本当に⾸を取ってきました。伏姫は⽗の約束を果たすため、⼋房と洞窟に籠ることになります。

そして年後、義実は伏姫を助けるため、家来とともに出向き⼋房を撃ち殺すが、伏姫は流れ弾に当たり命を落としてしまいます。

すると、伏姫が⾸にかけていた数珠から⼋つの珠が外れ、宙を舞い⼋⽅へと⾶び去っていきます。やがて、その珠を⾝に着け、体に牡丹の痣のある8⼈の若者が運命に導かれて仲間となり、⾥⾒家にかけられた呪いを解くため⼋⽝⼠として戦いに⽴ち上がります。⾥⾒家にかけられた呪いを解くため、運命によって引き寄せられた、きらめく珠を持つ8⼈の剣⼠が過酷な戦いの旅に出るという壮⼤にして奇怪な物語です。

その冒頭部分を聞いた北斎は、奇想天外な物語に驚嘆し、その場で即興の下絵を描きますが、正式に挿絵を依頼されると、「⽂句を⾔われながら描くのは懲り懲りだ」とその場で下絵を破り捨てていまいます。

しかし、続きが気になる北斎は、事あるごとに⾺琴のもとを訪れるようになります。⼤名お抱えの医者にするべく教育中の息⼦・宗伯磯村勇⽃に執筆の⼿伝いをさせながら、っもの語りは紡がれていきます。⼤の⼤⼈が昼間からくだらない話をしていると考える妻のお百寺島しのぶは、⾯⽩くないと思うのでしょう、何かにつけて毒づいていきます。

ある時、北斎に誘われて、鶴屋南北⽴川談春の新作「東海道四⾕怪談」の舞台を観た⾺琴は、忠⾂蔵の実話に怪談話の虚構をはめ込んだ物語に、辻褄が合わないと違和感を抱きます。⾺琴から疑問をぶつけられた南北は、「悪しき者が栄えるこの世の中こそ、辻褄のあわない世界だ」と持論を展開します。「悪がはびこる世の中だからこそ、物語の中だけでも勧善懲悪を貫くのだ」と反論する⾺琴でしたが、南北の⾔葉に⾃⾝の信念が揺らぐのを感じていきます。

「⼋⽝伝」は⼤⼈気となり、町中の誰もが続きを待ち望んでいる状況ですが、南北との対話後、息子・宗伯の死などがあり、⾺琴の筆は進まなくなってしまうのです。

葛藤しながらも⾃らの想いを貫き、書き進める⾺琴ですが、⻑い間⽬を酷使したことが祟り⽚⽬が⾒えなくなっていきました。それでも執念で書き続け、物語もクライマックスに差し掛かった時、遂に両⽬を失明してしまうのです。

正義を貫き、私⽣活でも何⼀つ間違ったことをしたことがない⾺琴でしたが、この現実に打ち拉がれ、筆を折って壁に投げつけてしまいます。

すでに連載開始から25年、⾺琴は73歳を迎えていました。そんな⾺琴に、息⼦・宗伯の嫁・お路⿊⽊華が真剣な⾯持ちで「私に⼿伝わせて欲しい」と申し出ます。予想もしなかった申し出に⾺琴はわずかばかりの希望を⾒出します。

失明してもなお書き続けた⾺琴が「⼋⽝伝」に込めた想いとは……?

奇想天外なファンタジー小説とも思えるような江戸時代に書かれた『南総里見八犬伝』ですが、その物語は正義とは何か、虚は実を越えられるのかなど、限代に通じるものがあります。そして、滝沢馬琴と葛飾北斎、鶴屋南北という時代の寵児の掛け合いによって生まれてくる壮大な物語の背景が浮かび上がってくるのです。ぜひ、映画館に足を運んで観てください。

中村恵里香(ライター)

10 25 () 全国ロードショー

公式ホームページ:www.hakkenden.jp

公式XInstagram @hakkenden_movie

スタッフ:監督・脚本 : 曽利⽂彦/製作総指揮: ⽊下直哉/エグゼクティブプロデューサー: 武部由実⼦/プロデューサー: 葭原⼸⼦、⾕川由希⼦/ラインプロデュー/

撮影: 佐光 朗 /照明: 加瀬弘⾏/美術: 佐々⽊尚/装飾: 佐藤孝之/録⾳: ⽥中博信/⾐裳デザイン: ⻄原梨恵/アクション監督: 出⼝正義/⾳楽: 北⾥玲⼆/ヘアメイクディレクター: 酒井啓介/技髪: 荒井孝治/記録: ⼭本明美/助監督: 副島宏司、松下洋平/編集: 洲﨑千恵⼦/カラーグレーディング: 星⼦駿光/VFX: ⽩倉慶⼆

キャスト:役所広司、内野聖陽、⼟屋太鳳、渡邊圭祐、鈴⽊仁、板垣李光⼈、⽔上恒司、松岡広⼤、 佳久創、藤岡真威⼈、上杉柊平、河合優実、⼩⽊茂光、丸⼭智⼰、真⾶聖、忍成修吾、塩野瑛久、神尾佑、栗⼭千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇⽃、⼤貫勇輔、⽴川談春、⿊⽊華、寺島しのぶ

2024年製作/149分/原作: ⼭⽥⾵太郎/製作:⽊下グループ/制作プロダクション:unfilm/配給:キノフィルムズ

©2024 『⼋⽝伝』FILM PARTNERS.


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