天国にちがいない


中村恵里香(ライター)

エリア・スレイマンという映画監督をご存じでしょうか。イスラエルのナザレ出身で、キリスト教徒のパレスチナ人の映画監督です。この監督は、現代のチャップリンと称される名匠といわれていますが、私は全く知りませんでした。

「“イスラエル”から考える」という特集にあたって、イスラエル国籍のパレスチナ人監督の作品はないかと思っていたところ、編集委員の方からこんな作品があるよと教えられたのが今回ご紹介する『天国にちがいない』です。

教会でイエスの墓を開く儀式が行われているところから映画は始まります。そして、パレスチナの日常が描かれていく中、突如主人公のスレイマンは、新作映画の企画を売り込むため、故郷イスラエルのナザレからパリに向かいます。自分のいる場所を探すようにおしゃれな人々やルーブル美術館、ビクトール広場、ノ−トルダム大聖堂など美しい町並みに見とれている様子が映し出されますが、パリでは企画が通ることはありませんでした。

そして次にニューヨークに飛び、映画学校やアラブ・フォーラムに登壇者として招かれます。友人である俳優エル・ガルシア・ベルナルの紹介で映画会社のプロデューサーと知り合いますが、新作映画は断られてしまいます。

行く先々で、故郷とは全く異なる世界を目の当たりにしていくスレイマン監督は、故郷に戻りますが、そこで、故郷との類似点を見つけるというお話です。

© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

この作品、ブラックユーモアという評価ですが、スレイマン監督の目を通して見える世界を描いている作品です。なんともユーモラスなシーンがたくさん盛り込まれ、クスッと笑ってしまうものですが、その中に監督自身の天国探しが盛り込まれている作品でもあります。私には、「どこにいても人間は同じだよ」と人間に対する愛おしさを語りかけている作品のように思われました。

 

【スタッフ】監督:エリア・スレイマン/製作:エドアール・ウェイル、ロリーヌ・ペラッシ、エリア・スレイマン、タナシス・カラタノス、マーティン・ハンペル、セルジュ・ノエル/脚本:エリア・スレイマン

【キャスト】エリア・スレイマン、アリ・スリマン、ロバート・ヒグデン、Sebastien Beaulac、フランソワーズ・ジラール、Natascha Wiese、ガエル・ガルシア・ベルナル

2019年製作/102分/フランス・カタール・ドイツ・カナダ・トルコ・パレスチナ合作/原題:It Must Be Heaven/配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス

© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION


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