酒は皆さんとともに

マウント・ヘルモン


石川雄一(教会史家)

イスラエルを舞台とした旧約聖書や新約聖書には、数えきれないほど頻繁にワインが登場します。例えば、エステルはぶどう酒が供される宴の場でハマンを糾弾(エス7・1-7)し、ユディトはホロフェルネスをぶどう酒に酔わせて勝利を収めました(ユディ13・2-8)。詩編ではぶどう酒は喜びの象徴(詩4・8、 104・15)として歌われており、箴言ではぶどう酒の悪い側面(箴20・1)が指摘されています。また、新約聖書では、イエスはぶどう酒を喩え話に用い(マタ9・17など)、そして言うまでもなく、イエスはパンとぶどう酒を用いた秘跡を定めました(一コリ11・25)。

これだけ沢山ワインが登場するという事は、イスラエルでは昔からワイン造りが盛んであったということを示しています。日本ではあまり飲む機会は多くありませんが、イスラエルは今日でも良質なワインの産地として知られています。そこで今回はイスラエル産のワイン、中でも日本で比較的手に入りやすい「ゴラン高原ワイナリー」のワインを紹介します。

世界中にイスラエルワインを輸出している「ゴラン高原ワイナリー」は、その名の通り、レバノンやヨルダン、シリアと国境を接するゴラン高原に位置しています。そんな「ゴラン高原ワイナリー」の商品の一つである「マウント・ヘルモン」は、ゴラン高原にあるヘルモン山の名を冠しています。現在ではスキーリゾートとしても知られるヘルモン山は、聖書にも度々登場する地です。例えば、ヘルモン山はエジプトを脱したイスラエル人が征服した土地(申4・48など)であり、レバノンの象徴(シラ24・13など)としても描かれています。また、詩篇でもヘルモンの地名が言及されています(詩編42・7など)。

このように、旧約聖書の時代から重要な場所であったヘルモン山から流れ出る雪解け水は、ガリラヤ湖の水源の一つとなっています。ペトロやアンデレが漁(マタ4・18など)をし、イエスが5000人に食べ物を与え(マタ14・13-21など)、水上を歩き(マタ14・22-33など)、嵐を静める(マタ9・23-27など)など様々な奇跡を行ったあのガリラヤ湖の水源の一つが、ヘルモン山なのです。また、イエスが行ったフィリポ・カイサリア地方(マタ16・13など)もヘルモン山麓に位置する場所です。

聖書の舞台となった土地であるゴラン高原に1983年に誕生した「ゴラン高原ワイナリー」は、今回紹介した「マウント・ヘルモン」の他にも、聖書に登場する地名を冠したワインを作っています。つまり、主がヨシュアに「今日、私はあなたがたからエジプトでの恥辱を取り除いた(ガラ)」(ヨシュ5・9)と告げられた地「ギルガル」やゴラン高原に由来する「ゴラン」、そしてイエスが洗礼を受けたヨルダン川(マコ1・9など)のヘブライ語読みである「ヤルデン」です。これらのワインはインターネットから購入することができます。聖書で読んだり聞いたりしたことがある地名に由来するワインを飲んで、巡礼気分を味わったり、黙想の供としてはいかがでしょうか。


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