オスカー・ピーターソン


オスカー・ピーターソンというジャズピアニストをご存じでしょうか。私がオスカー・ピーターソンを知ったのは、大学に入学して2年目のことでした。ある日、下北沢駅のそばにあるジャズ喫茶マサコにただコーヒーを飲みに入った時です。ジャズをそれまで聴いたことのなかった私は、心地よいピアノの演奏に魅了され、コーヒーを持ってきてくれた店主のマサコさんに、これは誰の演奏なのかを聞いていました。これがオスカー・ピーターソンとの出会いでした。店内にはさまざまなジャズ演奏家たちとマサコさんの写真が飾られ、なんとも心地よい空間でしたので、学生にはちょっと高価なコーヒーを週に1回は飲みに足を運ぶようになっていました。その後、社会人になり、会社の同僚と新宿厚生年金会館にオスカー・ピーターソンのコンサートにもたった回ですが、足を運びました。私にとってジャズといえば、オスカー・ピーターソンといえるほど大好きなピアニストです。そんなオスカー・ピーターソンが来年生誕100年を迎えるにあたり、ドキュメンタリー映画がまもなく公開されますので、ご紹介したいと思います。

1925年、カナダのケベック州モントリオールに生まれたオスカー・ピーターソンは、船乗りだった父が小さなオルガンを購入し、独学で学び、母やオスカーにも教えたといいます。幼少期にトランペットを吹いていたのですが、結核にかかり年間療養していたことで、管楽器を止められたことでピアノを学びます。ある日、ジャズ・ピアニストのアート・テイタムの演奏を聴いたオスカー・ピーターソンは、大きなショックを受け、ピアノが弾けなくなり、夜は泣いていたといいます。 その後、プロデューサー、ノーマン・グランツの手により、17歳でカーネギーホールで演奏することにより、世界中で演奏するほど有名になります。

オスカー・ピーターソンの人生は順風満帆のように見えますが、当時のアメリカは黒人差別が顕著な時代です。黒人であるが故に、タクシーには乗れず、ホテルも泊まれるところは限られています。トイレすら黒人は使えないところがあったといいます。公民権運動のキング牧師の活躍に呼応するように代表曲となる「自由への賛歌」が発表されます。また、世界中で演奏活動をする代償として3度の離婚も経験します。その後はぜひ、映画館に足を運び、観てください。オスカー・ピーターソンのインタビューだけでなく、彼の音楽に影響を受けた多くのミュージシャンたち、ビリー・ジョエルやクインシー・ジョーンズ、ラムゼイ・ルイス、ハービー・ハンコック、ジョン・バティスたちが語りかけています。私たちの知らないオスカー・ピーターソンの姿がそこにはあります。

中村恵里香(ライター)

2024日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

公式ホームページ:https://www.oscarpetersonmovie.com/

監督:バリー・アヴリッチ

出演:ビリー・ジョエル、クインシー・ジョーンズ、ラムゼイ・ルイス、ハービー・ハンコック、ブランフォード・マルサリス、ジョン・バティステ、ケリー・ピーターソン(妻)ほか字幕:山口三平

2020年/カナダ制作/81分/原題:Oscar Peterson: Black + White/配給:ディスク・ユニオン


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