(石風社、2750円、A5判並製カラー339頁、2022年1月20日発行)
中村恵里香(ライター)
西武園ゆうえんちで昭和の街が再現されたり、今昭和ブームが巻き起こっているといいます。子ども時代を過ごした昭和がなぜブーム? と思ってしまうのは、私だけではないと思うのですが、昭和という時代は、今よりも貧しかったけれども、人の心は豊かだったような気がします。子どもの絵は、その時代を映す鏡です。子どもの絵を見ると、その時代、そのときの心象風景を描き出しています。子どもならではの描き方はさまざまなものを感じさせます。
昭和44年10月から45年10月までの1年間、全国を自転車で回り、子どもたちの絵500点を収集した記録とともに子どもの絵を掲載されているのが本書です。
なぜ、鈴木さんは子どもたちの絵を集めようと思ったのかはまえがきに書かれています。
「理由は二つ。ひとつは絵が好きだから。特に子どもの絵を見るのは楽しい。子どもの絵には自由で素直な表現がある。子どもの絵を見る楽しさは子どもの心に触れる楽しさだと思う。子どもが伸び伸びと自由に描いた絵を日本中から集めて児童画展を開いたらどんなに面白いだろう。子どもたちの絵を通して見る日本の生活や風土、きっと様々な発見があるに違いないと思った。もう一つの理由は、自転車で全国を旅して自分なりに日本という国を感じてみたいと思ったからだ。」
今だったら、アポイントも取らず、突然各地の教育委員会や小学校に児童画提供の「お願い書」を持参しただけで絵を提供してくれるところはないだろうと思います。1年間で120の小学校から500点の絵を集め、その後、念願だった児童画展を銀座と日比谷の地下道ギャラリーで開催したといいます。
そして50年の時を経て、今年1冊の本にまとまりました。今の時代と変わったところや全く変わらないところが子どもの絵の中に表れています。北は北海道から南は沖縄まで、著者のコメントが添えられて掲載されています。そこには昭和の子どもたちの目に映った温かな絵が集められています。児童画の掲載の後に「児童画収集道中日記」には、旅の大変さや協力を惜しまなかった人々への感謝など、著者ならではの目線で当時の記録が書かれています。子どもの絵とともに著者の人柄が描き出されているこの本は、息苦しさを感じたり、ちょっと行き詰まったりしたときにページをめくると、なんとも温かな気持ちのわいてくる本です。
本の発売を記念して2022年3月10日から27日まで、福岡県の田川市美術館で展覧会が開かれたといいます。
また、WEB上でも「ありがとうの絵」で子どもたちの絵を見ることもできます。
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