「全ての部活動を中止する」「旅行しない」、オリンピックは開催される


大矢正則(東星学園小学校・中学校・高等学校 校長)

それは唐突にやってきた。2020年2月27日は、日本の近代教育史上、歴史に刻まれる日となるであろう。何の法的な根拠もなしに、首相が、「全校休業要請」を出したのだから。

休校要請の開始日は3月2日(月)。無茶な話である。要請が出たのが27日(木)の夜である。翌日の28日(金)しか、学校が対応できる日はない。29日(土)・3月1日(日)は、元々学校は休みなのだから。

小学生

27日の夜は、多くの自治体の教育委員会で臨時招集がかかったと聞いている。私の勤務する学校では、私学なので教育委員会の監督下になく、独自でいろいろ決めなければならない。私は校長職なのだが、夜間招集はやめておいた。教員の(私の?)体力が追い付かない。その代わり、翌日28日の児童生徒登校時間を2時間遅らせて、10時半とすることを、緊急一斉メールで配信した。そこには、荷物を持ち帰ってもらうことになるので、それらを入れる袋を持ってくるように書き添えた。また、夜のうちに、私は理事長と連絡を取り、首相の要請に従わざるを得ないことを報告した。この時点では、首相の要請の法的根拠を議論する余裕はなかった。同じころ、普段から連絡を取り合っているカトリック校の校長先生たちから相次いでメールが入った。どれも、この法的根拠のない要請に従うというものだった。また、懇意にしているある自治体の教育長とは電話で連絡を取り合った。教育長によると、どうやっても準備の関係で3月2日からの休校は無理なので、一日ずらして3日から要請に応じることにしたという。法的根拠のない要請だから構いはしないということらしい。

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勤務校に話を戻す。生徒登校を2時間遅れの10時半に設定した28日。朝7時から幼稚園長、小学校教頭、中高教頭、事務長、それに校長の私で学園運営委員会を開催した。教職員の出勤時間である8時20分より前に方針を決定しておかなくてはならない。こういうときはボトムアップを待っていたのでは間に合わない。時間との戦いであるからトップダウンで物事は進めていく。私は前の晩から「新型コロナウイルス感染症から園児児童生徒はもとより、教職員のいのちを守ることを最優先し、可能な限り活動を休止し、園児児童生徒と教職員は3月2日以降、可能な限り自宅に待機する」という基本方針を決めておいた。この線に沿って、学園運営委員会はちょうど1時間で終了した。

8時20分、教職員が出勤してくる時間である。ここからは、幼稚園、小学校、中高部に分かれて、企画委員会と呼ばれるマネジメント委員会を持った。続いて各校種毎の職員会議である。普段はどの会議も活発な議論がなされるのであるが、この日は、各校種別に、園長や校長・教頭からの伝達式の会議となった。何せ、10時半に園児児童生徒が登校してくる前に、明日から学校休業となること、今日が事実上の終業式となる可能性が高いこと、期末試験は実施しないこと、通知表は郵送すること、学校休暇中は、国や自治体の方針にしたがうことなどを記述した配布プリントを作成・印刷しなければならない。余計な議論は一切省かなければならなかった。結果的に生徒の登校時間、10時半より少し前に配布する告知プリントの作成は終わった。いや、終わらせた。これが遅れて、担任が教室に行くのも遅れてしまえば、こういうときに子どもは動揺する。こういうときは少し余裕をもって、担任は教室に行っておきたい。なんとかそれも叶った。

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いま、考えればこの日が学校における「戦時中ごとき」の始まりだった。

あれから1年半が経過した今年7月8日、都教委が出した「依頼」文には、こんな文言が並んでいる。いずれも、児童・生徒に対する指導の徹底という項に記してある。

「全ての部活動を中止する」「友達の家で遊ばない」「友達と会食しない」「旅行しない」。

それでも、オリンピックは開催される。

 


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