海辺の彼女たち


数年前から海外から技能実習生という名目で海外からの出稼ぎ労働者の過酷な現状が取りざたされていました。現在コロナのニュースが流れていますが、その実習生の現状はどうなんだろうとある日ふと考えていました。技能を習得するために労働者としてきた人々がなぜ、過酷な労働を強いられ、その職場から逃走したりするのか、現場にいない私たちにはわかりにくい問題ですが、その一端が描かれた映画『海辺の彼女たち』という映画が現在公開されています。

ベトナムから技能実習生として日本を訪れ、3か月。1日15時間の労働を強いられ、夜も昼もない状況で、残業代さえもらえず、十分な睡眠や休養も取れない生活からフォン、アン、ニューの3人は逃げ出します。

行き着いた先は海辺の街で、漁港での仕事でした。雪の積もる寒い北の町で与えられた住まいは、漁師の道具をしまっておく倉庫として使われているトタン張りの小屋の片隅でした。

紹介者のダンに仕事の紹介料半分を支払、残りは来月、給料の1割とともに支払うことになります。ダンから新しい銀行のカードを渡され、「不法就労だから、パスポートや在留カードを使えばベトナムに送還される」と注意されます。しかし、彼女たちのパスポートや在留カードは前の会社に預けたままです。

遠い異国で家族を恋しく思うニューは「家族に会いたい」と涙を流します。ニューを慰めるため、アンはベトナムの子守歌を歌うのです。

漁港での仕事が始まります。魚を仕分け、海水を洗い流し、発泡スチロールに詰める作業です。それが終わると、雪に埋もれたブイを取り出し、表面についた付着物をそぐ仕事が待っています。先に働いていた男性から「ここで5年も働けばお金が貯まるよ。だから頑張ろう」といわれます。

雪で遊ぶアンとニューですが、そこにフォンは加わろうとしません。体勢を崩し、雪の上に倒れ、嘔吐するフォンを2人は助け、小屋に戻ります。病院に行こうといいますが、少し休めば大丈夫とフォンは答えます。

翌日、呼吸を乱しながら働くフォンですが、発泡スチロールの箱をトラックに積み込む際に落としてしまします。アスファルトにたたきつけられた魚を再び発泡スチロールに入れようとする3人に漁師は、「これはお客さんが食べる魚なんだよ。丁寧に扱って」と強く言われます。

保険証も在留カードもない状態ですが、フォンを気遣う2人は、小屋を抜け出して病院に連れて行きます。しかし、保険証も在留カードもない状態では診察を受けられず、受付で帰されてしまいます。病院の廊下でフォンは「妊娠しているかも」と告げます。フォンの話によると、ベトナムの男性との間にできた子どもで、相手に電話をしていますが、連絡が取れないといいます。フォンは妊娠を確かめるべく、ベトナム人のアルバイト青年に保険証と在留カードの偽造を依頼します。その対価を支払うために、親元に送金しなければならないお金を送ることができなくなります。

アンとニューの反対を押し切って、偽造された書類をもって病院にフォンは行き、妊娠を知らされます。さて、ここからは観てのお楽しみです。フォンの運命は。

現在技能実習生として日本で働いている人は2019年で38万4000人とされています。その技能実習生の失踪者は8796人といいます。多額の借金をして日本にやってきて、過酷な労働条件の下、働き続けることができないというのが現状のようです。「海辺の彼女たち」はほんの一例かもしれません。

この映画を撮った藤本明緒監督は、2016年にSNSで知り合ったミャンマー人女性からのSOSメールから着想を得て、この作品を作ったといいます。日本人として日本に住み、当たり前のように仕事をし、当たり前のように生活できる状態の私たちには想像もできない哀しみや苦しみがあるように思えます。その一端かもしれませんが、深く感じることができる作品です。

コロナ禍の状況で難しいかもしれませんが、ぜひ映画館に足を運んでいただければと思います。

(中村恵里香:ライター)

 

ポレポレ東中野にて公開中、ほか全国順次ロードショー

公式ホームページhttps://umikano.com/

©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

脚本•監督•編集:藤元明緒

撮影監督:岸建太朗 / 音響:弥栄裕樹 / 録音:keefar / フォーカス: 小菅雄貴 / 助監督・制作: 島田雄史 / 演出補: 香月綾 / DIT: 田中健太 / カラリスト:星子駿光 / アソシエイトプロデューサー: キタガワユウキ / プロデューサー: 渡邉一孝、ジョシュ・レビィ、ヌエン・ル・ハン

出演: ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニュー 他

共同制作会社:ever rolling films/企画•製作•配給:株式会社E.x.N /宣伝:高田理沙

2020年/⽇本=ベトナム/88 分/カラー/5ベトナム語・⽇本語/ドラマ/DCP

 

■映画祭:

第68回 サンセバスチャン国際映画祭 新人監督部門 出品

第33回 東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門 出品

第42回 カイロ国際映画祭 インターナショナル・パノラマ部門 出品

 


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