アート&バイブル 83:キリストの復活


ティントレット『キリストの復活』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

ティントレット(Tintoretto, 生没年1518~94)は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する画家で、アート&バイブル22にてその生涯を紹介しています。本名はヤーコポ・ロブスティでしたが、生家の稼業が染物屋であったことからティントレット(染物屋の息子)という呼び名で知られるようになりました。

父親の薦めで、当時一番の画家であったティツィアーノに弟子入りして、門下生として成長し、画家としての技量を磨きました。やがてティツィアーノにも画家としての熟達を認められ、独立した工房を持つこととなります。彼の代表作はサン・ロッコ同信会館やサン・マルコ同信会館などに見られます。また彼は『最後の晩餐』(1592~94年、ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会)などの伝統的な画題に関しても、大胆な発想で取り組み、光と影、劇場の舞台のような人々の配置など画期的な手法を編み出しました。そのティントレットの描く、キリストの復活です。

 

ティントレット『キリストの復活』(1565年 キャンバス油彩 350cm×230cm ヴェネツィア、聖カッシアーノ教会所蔵)

【鑑賞のポイント】

(1)ティントレットらしい、力強く躍動感のあるイエスの姿です。イエスの葬られていた墓には、甲冑を着た兵士が身を伏せるようにうずくまっており、左側には恐れて逃げ出す兵士の姿も描かれています。ここまでは、福音書の記述(マタイ28:4「番兵たちは、恐ろしさのあまり震え上がり、死人のようになった」)や他の画家たちも描いていることです。

(2)しかし、ティントレットは大胆にも聖書には書かれていない二人の人物をイエスの復活に立ち会わせています。一人は聖セシリア(音楽の保護の聖人)です。彼女の近くにはパイプオルガンが描かれており、天使が演奏のための準備をしているように見えます。もう一人は白く長い髭を生やし、ミトラを被り、バックルスをもっている司教の姿で描かれている聖人です。この人物を断定することはできませんが、きっとこの絵のスポンサーとなった人々や教会の聖職者とこの二人の聖人は関係があったのではないかと想像されます。

(3)いずれにしても、ティントレットは強い陰影とらせん状に人物(小天使たち)を描き、動きを感じさせる絵となっています。セシリアと司教の姿の聖人には小天使が栄誉の冠を運んできている様子が描かれています。セシリアは当時から人気の高い聖人であったのでしょう。

 


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