ニコラ・プッサン『最後の晩餐』
稲川保明(カトリック東京教区司祭)
第45回で紹介した『七つの秘跡叙階(ペトロの首位権)』の作者ニコラ・プッサン(Nicolas Poussin, 生没年1594~1665)による『最後の晩餐』です。17世紀のフランス・バロック期を代表する画家プッサンは、ノルマンディー地方のレ・ザンドリに近い、ヴィレという村で生まれました。父は地方の小貴族でした。10代後半から20代の大部分をルーアンやパリで過ごしました。
1624年、29歳のときにローマに出てきており、ローマでは教皇ウルバヌス8世の甥であるバルベリーニ枢機卿の知己を得て、その画業を認められるようになりました。名声が高まると、フランス国王ルイ13世が彼を呼び戻しますが、1640年から1642年にかけてパリに滞在しただけで、再びローマに戻り、結局、生涯の大半をローマで過ごしました。17世紀はバロックの全盛期でしたが、彼の表現は抑制された古典的なもので、深い思想的背景をもった宗教画や歴史画が作品の主なモティーフとなっています。
【鑑賞のポイント】
(1)多くの画家が描いた最後の晩餐ですが、この最後の晩餐にはふたつの重要な瞬間があります。一つはダヴィンチに代表される「この中に私を裏切る者がいる」ということをキリストが告げた瞬間の驚き、不安、困惑の瞬間。もう一つは「これは私のからだである」と聖体を制定した瞬間です。
(2)プッサンの描く部屋の構造からは、ローマ風の柱など当時のパレスチナの雰囲気が感じられます。天井からつるされた灯火はティントレットも好んで描いていますが、ティントレットのような動きのある表現ではなく、むしろ優雅で古典的であり、鈍く弱い光はこれから起こる受難の不吉な予感を醸し出しています。
(3)描かれている人物はイエスを含めて13人です。イエスが左手で持っている皿のようなものの上に、小さくちぎられたパン(聖体)が見え、すべての弟子にこれを与えようとしています。つまり、ユダもパン(聖体)を受けたということになるのです。イエスはユダが自分を裏切ることがわかっていても聖体を与えています。それはユダへの最後の警告でもあり、また裏切られようとも罰することは望まないというイエスのみ心を表しているのです。
(4)天井の灯火の光を受けて表情がはっきりと見える二人の弟子がいます。左側に跪いて両手を組んでいる髭のない若者の姿のヨハネです。そして一人の人物を挟んでキリストに一番近いところにひざまずいて、両手を合わせて祈るような姿勢をしているのがペトロということになります。あえて、ユダがどこにいるか、ということについて、プッサンは明らかにしません。ユダもペトロも「私」の中にいるのではないか、と思わせるかのようです。
弟子の人数を数えてみました。 ペトロの影にちょっと見え隠れしている青い服の人物がいます。
顔は見えません。 皆イエスの言葉を逃すまいと真っすぐに見ている顔。 そして驚きの顔。
この青い衣服の人物はどんな顔をしているのでしょうか。。。
ダヴィンチの最後の晩餐は有名ですが、この絵は知りませんでした。 ^^
ありがとうございました。