やまじ もとひろ
1月、昨年までの「大学入試センター試験(センター試験)」から改められた「大学入学共通テスト(共通テスト)」が、初めて実施されました。
共通テストではさまざまな改革が施されていましたが、「英語」の変化にも注目が集まりました。
共通テストの英語では問題文の語数が、センター試験の4割増しの約5400語になっていました。また出題内容も、水族館の来館者数など複数の資料を見て計画を立てる問題など、それぞれの資料を和訳してから取りかかるようでは時間的に解ききれない「読解の質」を問う問題となっていました。
さて、この連載では「変わりつつある英語教育」をテーマに、中学校や高等学校における英語教育のあり方について追いかけています。
これまで新しい英語教育のあり方として、東京都の公立中学校で行われることになる「英語スピーキングテスト」(コロナ禍により1年間繰り延べ)と「ダブルディプロマ校」をご紹介し、つづいて「長期留学校」として、その先鞭をつけた大阪の薫英高校を紹介しました。
今回から2回にわたって、その薫英高校の長期留学システムを学んで追随し、ここ数年、生徒募集を伸ばしている佼成学園女子高校(東京)の例を取り上げます。
いま首都圏で長期留学校として、顕著な実績を上げている学校としてとり上げるなら、この学校でしょう。東京・世田谷にある佼成学園女子高校(佼成女子)です。併設の中学校もあり、伝統もある学校です。
仏教系の学校ですが、信者の子弟は10%に満たないため宗教系の学校といったイメージはありません。「ごく普通の学校」でしっかりとした女子教育をする学校という評判です。2000年代前半は、大学進学実績もМARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政の各大学)を目標とする生徒が入ってくる学校でした。
保護者から聞かれたら進学塾の先生は、「中堅の進学校でかつての『良妻賢母育成の学校』からはイメージは少し変わり、明るくてスポーツも盛んな、これからの女性を育む学校ですよ」と答えていたはずです。
ただ、「ごく普通の学校」は「これといった特徴のない学校」でもあったのです。
2000年代に入ると首都圏にも少子化の波がやってきました。多くの学校が生徒募集でぶつかりあい、大学進学実績を伸ばせていない学校は生徒集めに苦労し始めたのです。
このころの首都圏では、学校は生徒募集対応で2つのタイプに分けられました。従来から大学進学実績に定評があり、生徒募集に苦労していない学校と、PRにお金をかけなくては生徒が集まりにくい学校です。
後者の「生徒が集まりにくい学校」でも、少子化以前で生徒が多かったころは、都立高校に不合格となった生徒の受け皿としての役割があり、定員は確保できていました。
しかし、少子化で生徒が減り、都立高校の受け皿としてだけでは、定員を満たせず、存在価値を失っていく学校も出てきたのです。定員を割ってしまうと入学金、授業料も入ってきませんから、PRに使うお金もなくなってしまいます。
学校という教育機関は、お客さんを集めるために入学金や授業料を下げても効果はありません。教育の質が下がると捉えられてしまうからです。こうした負のスパイラルに陥り、泣く泣く学校を閉鎖するところも出てきました。
早めに危機に気づき、対処しようとした学校は生徒を募集するために、先行して少子化が進んでいた関西の学校と同じように「特進コース(クラス)」を設置して大学進学に力を入れていることをアピールしたり、「男女共学化」したりと策を講じました。
男女共学化も大学進学実績を上げる1つの手段でした。成績上位層は男子にも女子にもいるはずで、それなら両者から迎えた方が上位の生徒を取れるはずという考えです。
2002年度からは改められた学習指導要領で「学習内容の3割削減」「絶対評価の導入」などが打ち出され、いわゆる「ゆとり教育」での弊害が目立ち始めます。国際的な調査で、日本の生徒の学力がめだって下がっていったのです。
そこで「公立中学に任せてはいられない」という保護者たちは、私立中学校に目を転じました。こうして首都圏に空前の中学受験ブームがやってきます。
中学受験とは国立と私立の中学校を受験して進学する、という意味です。当時は近隣の公立中学に進む場合、入試はありませんでした。しかし、現在は公立でも「公立中高一貫校」という学校があり(2005年、都立白鴎中学開校~)、適性検査という検査(試験)を受検しなければならないのですが、人気となっています。
中学受験ブーム……、しかし佼成女子は、その流れにはうまく乗れませんでした。「ごく普通の学校」では、保護者たちの目にはとまらなかったのです。
影響がめだったのは、そのブームに乗れなかった中学募集でした。
先生たちが「特進クラスなんか作っても、もともと進学実績のない我が校では……」などと他人事のようなことを言って手をこまねいているうちに、いつの間にか生徒が減っていきました。
男女共学化も難しい学校でした。隣の杉並区に佼成学園という系列男子校を持っていたからです。
併設中学(定員90名)での入学者が20人を切って、事態の深刻さに教員たちは気づきます。しかし、なかなか打開策は見つかりませんでした。中学募集の低迷は高校募集にも影響を与えます。
定員230名のうち、確保されていた併設中学からの生徒が減れば、高校入学組は入りやすくなり、高校からの生徒の学力が下がります。学力が下がれば、次の募集に響き……、とマイナスの循環が始まってしまうのです。
あとがなくなった佼成女子を救ったのは「留学」でした。それは次回の話題とします。
[つづく]
やまじ もとひろ
教育関連書籍、進学情報誌などを発刊する出版社代表。
中学受験、高校受験の情報にくわしい。