アート&バイブル 78:聖アンドレアと聖トマス


ベルニーニ『聖アンドレアと聖トマス』

稲川保明(カトリック東京教区司祭)

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini, 生没年 1598~1680)は、バロックの時期を代表するイタリアの彫刻家、建築家、画家です。「ベルニーニはローマのために生まれ、ローマはベルニーニのためにつくられた」と賞賛されたバロック芸術の巨匠で、バチカン広場、またローマ市内の各所にある噴水や彫刻を制作し、古代遺跡が残る古き都ローマは彼の手によって、壮大なスケール、絢爛豪華な装飾にあふれる美の都に変貌させていきました。

彼の主な作品は、サン・ピエトロ大聖堂の中央祭壇の天蓋、ローマ市内の多くの噴水と彫刻、ナヴォナ広場の噴水、サンタ・マリア・ソップラ・ミネルバ教会の像のオベリスク、サンタ・マリア・ヴィトリア教会にある聖テレサの法悦やボルゲーゼ美術館にあるアポロンとダフィネなどの超絶技巧の彫刻などローマの至る所で見られます。彼の成功には、シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿の後押しがありました。

建築と彫刻の作品が有名ですが、彼は画家としても作品を残しています。その一つが、今回紹介する『聖アンドレアと聖トマス』です。

聖アンドレア(新共同訳アンデレ)はいうまでもなくペトロの弟で、最初にキリストに出会い、弟子となった人物です。しかしながら、イエスは重要な場面においてはペトロとゼベダイの兄弟ヤコブとヨハネを連れていきます。ヤイロの娘のよみがえり(マルコ5:21~43)やタボルの山での変容(マルコ9:2~8)、そしてゲツセマネでの祈りの時(マルコ14:32~42)などでもあの3人が近くに呼ばれています。

アンドレアはイエスやペトロたちが不在の時に残った弟子たちをまとめ、面倒をみるという、地道でかつ繊細さが必要な任務を任されていたのではないかと思います。彼が活躍する場面として、ヨハネ福音書6章があります。

ベルニーニ『聖アンドレアと聖トマス』(1627年 キャンバス油彩 59×76cm ロンドン ナショナルギャラリー所蔵)

「弟子の一人で、シモン・ペトロの兄弟アンデレが、イエスに言った。『ここに大麦のパン五つと魚二匹とを持っている少年がいます。けれども、こんなに大勢の人では、何の役にも立たないでしょう。』 イエスは、『人々を座らせなさい』と言われた。そこには草がたくさん生えていた。男たちはそこに座ったが、その数はおよそ五千人であった」(ヨハネ6:8~10)。

彼の機転と行動力があの大きなしるし(5000人を5つのパンで養う奇跡)のきっかけとなっているのです。

 

【鑑賞のポイント】

(1)アンドレアとトマスの二人が描かれています。アンドレアは右手に書物のようなものを持ち、また左手で何かを指さしています。顔はトマスの方に向けており、何かをささやいているようにも見えます。アンドレアの胸先にはテーブルのようなものがあり、その上に一匹の魚が置かれています。これはアンドレアが漁師であったこと、イエスからこれからは人を漁する漁師になりなさいと言われたこと、五つのパンと二匹の魚を増やして、人々を養ったこと、魚はイエス・キリストのシンボルであることなど、多くのことが連想されます。

(2)トマスの視線はアンドレアではなく、その先にいる人物に注がれているように見えます。トマスの見ていたものは、復活されたイエスなのかもしれません。

 


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